第二十話 ビーストショップ
ビーストショップはウェポンショップから離れること2分で着いた。同じ大通りだ。
ビーストショップには多種の笛が並んでいる。並べ方はウェポンショップと同じである。
ヨルガオは鍵笛の説明を始める。
「鍵笛も1つの笛で精霊を1体のみ呼び出せる物もあれば、2体とか3体呼び出せる物もある」
「商品名を見ればわかるさ」
「鍵笛で呼び出す精霊の種類を指定する方法はだな……」
「音色で指定するんだろ?」
「――そうだ。ちなみに鍵笛を適性のない人間が吹こうとしても」
「音が出ない。だろ?」
「……正解だ」
「鍵笛を握れば精霊を呼ぶのに必要な楽譜が頭に浮かぶ、って感じか?」
「よくわかるな」
「漫画家の勘ってやつかな」
ヨルガオは店員に話しかける。痩せた30歳ほどの男性だ。
「話を聞きたい」
「これはこれは五竜星のヨルガオ様! 一体なにをお求めで?」
「とにかく強い精霊が欲しい。ここで一番強い精霊はなんだ?」
「いやぁ……私の店は『強さ』よりも『便利さ』を優先しておりまして、そこまで強力な精霊はいないのです」
「そうか……」
「ですが、強い精霊の誓約碑があると噂される場所は知っております」
アラジンとヨルガオの表情が変わる。
「しかし、ただで教えるのはちょっとですねぇ……」
チラ、チラ、とアラジンの膨らんだポケットを見る店員。
「いくらだ?」
「3ってところですかね」
アラジンは舌打ちし、3万オーロの札を渡した。
「ほらよ」
「まいど! では少し場所を変えましょうか」
アラジンとヨルガオは店員に連れられ、小さな民家を訪れた。
民家の机に店員は砂漠の地図を広げた。
「誓約碑があるとされる場所はここです」
商人が指さしたのは〈ジャムラ〉から30kmは離れた場所だ。
「遠いな。ここに強力な精霊の誓約碑があるのか?」
ヨルガオが聞く。
「ここには祠があります。その祠が現れたのは5年前のことです。なにもない砂漠の地に突如として現れました。祠が出現した後、私も含め多くの商人が誓約碑を求め祠を訪れましたが祠に入る事すらできずに退却しました」
アラジンは商人の説明に違和感を覚える。
「意味がわからないな。中に入れてないのになぜ祠に精霊の誓約碑があるとわかる?」
「門番がそう言っていたので」
「突然現れた祠に門番がいるのかよ……」
「恐らくは祠を出現させた何者かが召喚主なのでしょう。砂の体を持った人形の門番です」
「その門番が商人を追い払ったのか」
ヨルガオが聞くと、商人は首を横に振った。
「いいえ。門番はただそこで祠の説明をするだけ。邪魔はしません」
「ならばなぜ中に入れないのだ?」
「入口の扉が開かないのです。扉の上に珍妙な文字が書いており、それを読めないと中に入れない仕様のようです。あの文字が古代の文字なのか、それとも暗号かなにかなのか……」
「入口を壊すことはできないのか?」
アラジンの言葉に対しても商人は首を横に振った。
「ダメでした。入口だけでなく、あらゆる壁に衝撃を与えましたが傷1つ付きません。祠を壊すのは不可能と考えていいでしょう」
「わかった。情報感謝する」
「いえいえ、五竜星様のためならこれぐらい当然です」
「3万払わしておいてよく言うな!」
民家を出たアラジンとヨルガオは人気のない路地裏で話し合う。
「どうするアラジン。祠に向かうか?」
「他に手がかりもない。行くしかないだろ」
「しかし、これまで誰も入る事すらできなかった場所だぞ? 無駄足になる可能性は高い。それに簡単に行ける場所でもない。1日がかりになるだろう」
水霊の儀までの時間は少ない。ここでいたずらに時間を使うのはリスクが高い、だがアラジンには勝算があった。
「……もしもだ。もしも祠に書いてある文字とやらが、暗号ではなく古代の文字なら、読めると思う」
「本当か?」
「ああ」
アラジンは『全ての言語に対応できるようにしてくれ』と二つ目の願いで叶えている。
古代の言語ならば、願いの力で読めるだろう。
「ならば明日、祠に行こう。交通手段はこっちで用意しておく」
「時間はあまりないんだ。行けるなら今日行っちまおう」
「お前は休息をとれ。連日連夜漫画を描いていて睡眠時間を確保できていなかっただろう」
「でも――」
「いいから休め。明日はきつい道のりになる、体力不足で臨めば果てるぞ。砂漠は危険な場所だ」
ヨルガオに押し切られ、アラジンは帰って休むことにした。