クズ人間樽本、その愛
土曜日の20時更新です……
「ねぇ~樽本ォ~」
世間的にはゴールデンウィークなんかな?
四月最後の土曜日昼過ぎ。近所の公園ベンチで一服つけとるんやけど。
「頭、パーンて」
横にちょこんと座った上目遣いの白うさぎ。甘えた感じで言うてくる。
「ここんとこ全ッ然頭パーンてなんないからぁ。つまんないよ樽本ォ~」
確かに最近、我ながら調子がええ。良すぎて生活保護切られんよーに気ィつけんと。ウチのケースワーカーはすぐ働け~働け~言うしな。
「来いよ来いよ樽本! カマン、頭パーン!」
イヤ、誰が行くかい。
お前の目の前で失神したら何されるかわからんからのーウサ。最近はボディーガード帯同してる。
ハムスターのあゆちゃん。
隣街のゴミ捨て場で死にかけてたとこ拾って来たんやけど。小動物やのによう働く。一生懸命小銭稼いできては貢いでくれる。おかげでパチ代には困らんくなった。
「もぉ、ウシャしぇんぱいったら~! ご主人しゃまを煽らないで下しゃいよ~!」
デレとる……。
あゆがウサにデレとるがなこれ。今日ウサに会いに行くっつったら「女子プロレスラーになるまで絶対外しましぇん!」とか宣言してた覆面、外してきたし。
「うっせーなぁとっとこ。お前はそこでスクワットでもしてろ」
嬉しそーにスクワットしとる。とっとこって何?
……まぁ、ええか。
携帯灰皿にタバコぐりぐりして、と。ゆっくり立ち上がって腰、ぐ~って伸ばしてから。
ビッタァァァァァァン!
おもくそ土下座カマした。
ウサがベンチの上から覗き込んできよる。スクワットしながらアタフタするあゆ。
「ご、ご主人しゃま! 何かしぇんぱいに悪いコトしたんでしゅか?」
あゆ、大丈夫や。とりあえずスクワット止めてから心配してくれ。
「これからウサに一生に一度のお願いするとこや」
「何? また頼みゴトなの樽本ォ」
「実はなウサ……」
地べたに貼り付けてたオデコからパラパラと砂が落ちる。
「今、落としたい女がいてんねんけど」
「生保もらってる人、恋愛していいの?」
「基本的人権て言葉知っとるか小動物。恋愛はな……自由なんやで!」
ふーんてウサ。ふーんて。
「その子な……うさぎ大好きやけどパチンコ屋の寮に住んでて飼われへんねんて。んで、今度ウチで飼うてるうさぎ見においでって誘った」
「ウソついていいの? 生保のクセに」
容赦無いねんけどー。社会的弱者に。
「アタ、アタチじゃ……ハムスターじゃダメなんでしゅか、ご主人しゃまあああ!」
「ゴメンあゆ。うさぎで釣れた女やから。ウサやないとアカンねん」
「……僕やるって言ってないけどペット役」
「百円」
「やらせて欲しいんだッ! 樽本さん!」
百円に食い付くウサ。コイツ百円大好きやからな。これで段取りは整った…………ん? あゆがいつの間にか覆面被っとるけど。
「ウシャしぇんぱい、アタチと戦って下しゃい。ご主人しゃまの下僕の地位をかけてッ」
へ? イヤ、あゆ。違う違う!
「とっとこオオオオオゥゥゥッ」
イヤ、お前も間違っとるわウサ!
バッシィィィィィィン……
✳✳✳
何かええ顔してウサがベンチの下に転がっとる。
「完敗だよ……とっとこ。まさかあそこでアレが来るとは、ね」
「アタチにアレを出させた小動物はしぇんぱいが初めてでしゅよ」
ベンチに登って来たあゆが覆面をパァァて脱いでこっち見た。
え、どーゆー事なん?
そんなキラキラした目ぇしてからに……。
まぁ、しゃあないか。ウサ使ってナンパすんのは止め、諦めた!
浮いた百円であゆに〝かじり棒〟買ったった。
それではまた……




