パンダと呪いの王、あとウサギ
土曜日の20時更新です……
川面がお日様に照らされてキラキラしてる。
パン田はいつものように川でディナーの食材を調達していたんだ。
川といっても住宅街を流れる小汚ない小さな川だけれどね。たまに鯉なんか泳いでたりする。その時はテンション上がるかな。まぁ、普段は冬眠中のザリガニで我慢してるもんだからさ。
全ての動物の頂点に立つ、パンダのパン田だけれど。王としての資質を試す試練だと思ってるよ。庶民の生活を知る上でね。
おや……?
何か、小魚の死骸みたいなのがプーカプーカ流れてくる。パン田は少し考えた。スルーすべきか否か。
バシャバシャバシャ。
思わず走り出していた。好き嫌いしちゃダメだってファンの子供たちにいつも言ってる。先週から草しか食べてないしね。
パン田はそれを掴み上げた。
「うわ、きっしょ……」
それは小魚の頭をした小人だったんだ。ボディ部分は男性の裸体で、下半身にワカメ巻き付けてる。
「きっしょい言うなっぺさ。コロすぞ!」
「……きっしょいのが喋った」
「お前コロす! 絶対呪いコロす!」
小人はパン田の前足の中でジタバタ暴れてる。このまま握り潰しちゃっていいかな。
「君は……何だろ。小魚? それとも小人?」
「ワイかッ。ワイはチカシラクビリ。呪いの王だっぺさ!」
「えーと。……魚でいいのかな?」
「チカシラクビリ! 趣味は死んでるみたいにプカプカ浮くコトだっぺさ!」
ちっこいのが足で蹴ってくる。生で食べても大丈夫なのかなコレ。
「おま……まさかワイを食う気? 正気ですか、呪いの王だっぺさよワイは」
「よくわからないな(ジュル)」
「聞け聞け聞け! ワイはこの世界で初めて生まれた呪い。食ったら呪われるよマジで」
「……いただこうかな(ジュル)」
「おま、バカ! お前はバカか? 食いもんじゃないからワイはッ……よし、わかった。交換条件だっぺさ。ワイを食わないでリリースしてくれ。そしたら誰でも呪いコロしてやるっぺさ」
魚のクセに横柄なヤツだなぁ。パン田的には頭だけ食べれれば問題ないんだが。ボディはきしょいから捨てます。
それじゃいただこうか。
と、その時だった。
背中に射るよーな視線を感じたんだ。
「……サツか?」
バッと振り返る!
堤防の上がったところ。歩道からじぃぃぃと見てくる小さな影ひとつ。
ウサくんだった。
「やぁウサくん。これからディナーなんだよ」
「そんなの食べたらお腹壊すよパン田さん……」
そう言うとピョンピョン跳んで下りてきた。目が真ん丸になって食材に釘付けになってるね。こーゆー時のウサくんは厄介だ!
「お、お、ウサ公! この狂ったパンダに言ってくれっぺさ。ワイを食ったら末代まで呪われるって!」
「ぺさ! 呪い?」
食い付かれた。しかもダブルで。すでに魚頭の小人(ワカメふんどし付き)ってトコで頭パンパンになってる小動物の。格好の的だなコレは。
「呪術、使えるんぺさ? この呪霊。特級?」
じゅれい? 特急? あー、ウサくんは呪いのアニメに夢中だったね。
「いや、コイツは食用の小魚だよウサくん」
「ウソウソウソウソ! 使えるッ、バリ使えるっぺさよウサ公。ワイは縄文時代に生まれた呪いの王だっぺさ!」
「スクナなの?」
「は? 両面宿儺 のコトか? ありゃ只の山賊だっぺさ。ワイこそ全ての呪いの根源、始祖だから」
ちっこい胸を張るチカ何とか。ウサくんがぐーって覗き込んできた。
「…………戦えんの?」
「戦闘? あー、ハイハイ。やれるやれる誰でもソッコーでコロせるっぺさ!」
「じゃ、採用!」
何に採用すんのかわからないけどね。
コイツはパン田のディナーなんだ。渡さないよ? ウサくんの頼みだとしても、だ。パン田は今、生魚の口になってます。例え地球が滅びようと。コイツの頭だけは手放さない!
「百円で売ってパン田さん」
「消費税付けて」
「じゃ百十円」
「売ったアアアアアアアアアアアアッ!」
ウサくんは「七番勝負に出す」とか「パン田さんも出て」とか言ってたみたいだけどね。
パン田の魂は既に、ここには在らず。
近所のコンビニの棚に飛んでいるよ。お目当ては〝おにぎり百円セール〟
炭水化物、大事。
それではまた……




