ビタースイート
土曜日の20時更新です……
毎年この日を迎えるにあたって。
自分自身に言い聞かせてた事があります。「期待はしない」「待たない」そーすればいつも通りに、何事も無かったかのように通り過ぎてく。
でも今年は違う。
何もしないってのは生きてないのと同じだと知りました。
そう、リンさんに出会ってから。
ボクはここに居るよ! それを彼女に伝える為に里見洋介三十歳独身、重い腰を上げます。
チョコレイトをボクからリンさんに渡す。
海外じゃね、バレンタインに男性から女性にってのが当たり前みたいなんで。ええ、それでいきますよ。
だって貰うのはちょっと……ほら、ムリゲーだし。
2.14。
今日はお仕事休みました。今から一日商店街ウロウロします。いつもリンさんとウサ、午後から買い物来る事多いんでね。
偶然を装って渡すつもり。一応義理チョコってわかるヤツ用意してます。別に告るワケじゃないから。
会えるかどうかなんて考えてません。
会うんだ! そして渡す!
鋼の決意を胸に五分後、商店街の入り口に到着したボク。
早速ウサ発見ッ。
心臓が早鐘を打つ。ヤベ、心の準備がまだ……。
白うさぎはエキショーの子猫メタと道端でコロッケ食べてました。
ん? リンさん居ないんだけど。
「リンね、風邪引いて寝てる!」
オワタ。
いきなりオワタ。
「熱あるよ。39度!」
おお。絶対渡せねーじゃんかこれ。
「僕、お薬買いに来たんだけど。メタいたからコロッケ食べてる!」
「……イヤ、ダメだろウサ。リンさん薬待ってっから。はよ帰れ…………」
すると。
コロッケ食べ終えたメタが何やら取り出しました。茶色くて艶があってちっちゃいハート型の……
「ふうう。ウサ兄ちゃん、もうお腹パンパンで食べれないよう」
「メ、メタ。なな何、それ?」
突然カミカミのボクに驚くメタ。
「え、チョコだけど。リンからだったよね兄ちゃん」
「うん。渡せないからボクに配れって」
「だだだだだだ誰に配れって?」
「えーとネ。モモンガのヨースケとロッキーと……あと何だっけ?」
脳みそカラカラ言わせながら考える小動物。
「ヒューメン、ヒューメンは?」
「人間? ええと……言われたかなー。覚えてません」
「ウサウサウサ。いいか、ここ大切。めっちゃ重要なとこだからね、思い出すんだ! 命に変えてもなッ」
「あ…………」
「お、思い出したかッ?」
「うん! 瀬良じゅりあにあげてって!」
ボクは思わずちっちゃな両肩を鷲掴みにしてました。目が血走ってたと思う。
「…………………………………………ボクのは?」
「覚えてません!」
ウサが赤い硝子玉みたいな目して言う。
コイツ……こんな大事な事をッ。リンさんにライーンで確認するか? イヤ、熱出してしんどいのにそれはダメだ。もし「ない」ってレス来ても再起不能になるかもだし。
でも、引きたくはなかった。
「……チョコ余ってないかなウサ?」
「余ってるよ」
「…………ボクにくれないかな?」
「ダメ」
この白いのは、いつも変なタイミングで邪魔してきます。今回ばかりは主導権握られちゃってるんスけど。
「そうだ! ボクの持ってるチョコと交換しよ交換。それでいんじゃねウサ?」
「うん、いいよ。あと七番勝負に出てくれたら」
交渉成立。
何かよくわからん勝負に参加する条件でリンさんのチョコをゲットしました。……七番勝負て何?
嬉しそうにボクのチョコ食べとるウサ。
何だ、自分も食いたかったのか。メタも一緒になって食べてます。お腹大丈夫か? 折角なんでボクもいただくとしよう!
正直、喜びはない。それでもチョコはほろ苦くてうまかったです。
ボクなりの聖バレンタインデー。
ウサ、早く薬買って帰れ。
それではまた……




