ハリネズミのうた
土曜日の20時更新です……
我ながら荒々しく生きたわい。
舐められるのがイヤで触れるモノみな刺して刺して刺しまくった。
ハリネズミじゃからな。
若い頃ペットショップから脱走してアチコチをさすらひ。カラスと喧嘩したり飼い猫のエサ盗んだり。人間の子供からカツアゲもしたのう。
生きたいように生き、今。死にかけとる。
悔いはない。
ゲージから飛び出して精一杯生き抜いた。アウトローの最期としては申し分ない。
このまま静かに。
静かに。
しず……
何? うさぎが覗き込んできよる。
おま……あっち行かんかコラ。見せモンじゃねーわ。ん? 何じゃと。
「さっき派手に自転車にぶつかってたけど。ボールかと思った」
うん。ガキの乗った自転車に轢かれたんだわ。寒かったんで道端で丸まっとった。悪いか。やりたいようにやる。それがアウトローの矜持……
「ケーサツ呼ぶ?」
ダサ。それはダサいわお前。最期にポリ公の世話んなってどーするんじゃ。
「あんたハリネズミ? トゲトゲ飛ばせる?」
飛ばせんし、仮に飛ばせたとしても今は飛ばさん。何故なら死にかけとるから。
「ソ◯ックの知り合い? ヘッジホッグて何?」
あー、あの青い奴な。この質問よくされるわハリネズミだから。まさか今際の際で聞かれるとは思わなんだけど。
「ちょっと待ってて。誰か呼んでくるから」
……行っちまったか。
やれやれじゃ。これで静かに最期の時を迎えるコトが出来るわい。
奴が戻るまでにとっととおっ死んじまって……
「トゲトゲ~、ロッキー連れてキターッ!」
早ッ! 何かゴツいトイプードルと猛スピードで帰ってきよった。
「ホントだ! トゲトゲだねウサくん。あの、飛ばせるんですかソレ?」
ふうう、同じ系統の奴連れて来たな。何か飛ばせそーな気がする今なら。そしてコイツらをトゲだらけにしてやりたいと思ふ。
「ロッキー、このトゲトゲもうすぐ死ぬんだ。目見たらわかる」
「え、そーなのかい?」
「うん。山でいっぱい見てきたこーゆーヤツ」
どんだけデリカシーないんじゃこのウサ公は。
ま、死ぬけどな。
そろそろほっといてくれんかのー。元気だったらソッコー刺してる。ぶっ刺す。若い頃なら丸まってアタックかましてる絶対。得意技じゃ。
「ハリネズミさん、何か言い残したいコトとかあれば一言」
「一言どーぞ」
二匹が前足を突き出してくる。インタビュー形式で遺言聞いてくるんじゃが。
イヤ、もう喋れんのよ。
何か変な間が出来て気まずう。いい加減ゆっくり死なせてくれい。助けてポリ公。あ、ポリ公は駄目。
「死ぬ時ぼっちじゃない方がいい」
「だね、ウサくん」
え……。
只の野次馬じゃないのか、お前さんら。
「トゲトゲの夢は何?」
は? 夢?
「その夢は叶ったのかな。ハリネズミさん」
夢か。
あったかのう夢。毎日生きんのに必死でもう忘れてしもた。
「どんな夢だったトゲトゲ」
……思い出したわい。
来る日も来る日もペットショップのゲージで思い描いた夢。
辺り一面のお花畑を見るコト。
何ともメルヘンな夢じゃろー。ショップのレジに飾ってあった花が好きでな。こーゆーのが一杯咲いとる天国みたいな場所があるって、店員から聞いてたんじゃよ。
そう言えば…………
この夢、もう叶っとったな!
いろんな色の花が咲き乱れて……あれはどっかの公園の花壇? イヤ、違う。
アチコチで見た。
どっかの家の庭、どっかの学校の校庭、どっかの山や高原。
この広い世界を自由に旅して見てきた。
そうか…………
意外と悪くなかったのう。
ふほほ。
「あ、トゲトゲが笑った!」
ようし、そしたら最期の気合い入れじゃー!
目一杯空気を吸い込んで息を止めてみる。ほっぺたパンパン。おお、体が真ん丸く膨らんできてちょっと浮いたわい。
ふほほ。
そのまま風船になって
空高く舞い上がろう。
それではまた……




