表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/229

パンダのパン田のクリスマス

土曜の20時更新です……

「メリ~、クリスマ~ス!」

 

 白髭のサンタコスしてるオジサン。商店街を行き交う人達に愛想を振り撒いているね。

 

 アーケードのないこのこじんまりとした商店街も。土曜の夕方、しかもクリスマスイブとなると少しワクワクして見えるかな。

 

 パン田は普段、人混みの中に長居はしない。

 

 え、だってこの星の人は皆パンダを見かけると我を失うからね。イヤ、当然だよそれは。責められるべきではないと思う。

 

 パニックになるとほら。拳銃を持った地方公務員、やって来るでしょ。アレがダメ。

 

 だからパン田は今、トナカイとしてここに居ます!

 

 トナカイの着ぐるみ着て商店街のガラポン抽選会を絶賛盛り上げ中。サンタ軍団のエースとしてね。

 

 面接の時は商店街の連中も驚いてたなぁ。

 

 そりゃあそうさ。正に羊の皮を被った狼、どころか荷役動物の着ぐるみ着た動物王、になるんだもの。いいんスか、みたいな。

 

 でもね。

 

 パンダとして、百パーの力で庶民に愛と希望を分け与えるコトが叶わない現状を皆が理解してくれた。

 

 そうしてパン田は今、監視カメラの多い商店街でも大手を振って。サツの目を気にするコトなく、人々に奇跡のお裾分けして日銭も稼いでる。

 

「おい、赤鼻。そこのお前だよ、もっと愛想良くやれガリガリのトナカイ!」

 

 サンタがイキってるね~。商店街の会長さんだけど。年イチでサンタ役出来てテンションぶち上がってるのかな。フゥゥ、きっつ。

 

 まぁ、今のパン田はトナカイだから。この鹿擬きじゃ突っ立ってるだけだと誰も寄って来な…………ん?

 

「トナカイは本物のトナカイですか?」

 

 おや? 足元で顔ペチャの子猫くんがパンダ、じゃなくてトナカイをじっと見上げてる。何だコレ。前にも全く同じシチュエーション、あったよね。

 

 ウサくんの舎弟。エキショーのメタくんだ……。

 

「本物なら空飛んで来たんですかトナカイ」

 

「……うん。そうだよ子猫くん」

 

「ソリはどこですかトナカイ」

 

「有料駐車場だよ」

 

「今飛べますかトナカイ」

 

「移動の時だけ飛ぶようにしてます」

 

 少し考え込むメタくん。パン田だと気づいてないみたい。相変わらず呼び捨てだけど。

 

「証拠がない……」

 

 商店街のトナカイさんを追い込んじゃダメだぞメタくん。そこはフワッとしたトコでやってるからね。

 

「ウサ兄ちゃーん! このトナカイ怪しいよー!」

 

 あ、ガラポンしに来てたんだウサくん。人混みの中から黒耳がひょっこり。

 

「どしたメタ。ここのガラポンインチキだよ。SNSで晒す!」

 

「ウサ兄ちゃん。このトナカイもついでにお願い」

 

 このコンビにだけは。

 

 トナカイの正体がバレるワケにいかない。だってパンダのアイデンティティが崩壊させられる危険性があるんだもの。

 

「コイツ飛べないと思う!」

 

「メタ。こーゆーのは着ぐるみってヤツでさ。中に人が入ってる。本物じゃないよ」

 

「えええええええええええッ?」

 

 余程ショックだったのかな。泣き出しちゃった。

 

「え、えふえふッ。ボ、ボクおバカだがらぁ。だ、だ、だ、だま、騙され……るゥゥゥ」

 

「泣くなよメタ。ソイツは別にお前のコト騙そーとしたワケじゃない。そーゆーお仕事なの!」

 

 あ……そんな震えて。

 

 ウサくんが頭ポンポンしてあげてる。

 

 その時パン田は無意識のうちに行動していたんだ。多分それは王として生まれ持った資質。パンダをパンダたらしめている所以。

 

 スポーンて。トナカイの頭スポーンて取ってた。

 

「ほら見て、パンダだよーッ! メタきゅぅぅぅん」

 

 一瞬。

 

 この界隈の時間が止まった。

 

 ザ・ワールド。

 

 そしてまた、静かに時を刻み始めたね。通行人にはパンダの存在を認識出来なかったようだ。好都合さ。

 

 目を真ん丸くしてるメタくん。あ、ウサくんもだ。

 

 うん。

 

 少し……驚き過ぎじゃないかな君達。「あ、パン田さんだー」ってリアクションだけで良かったんだけど。

 

 不安に駆られて少しキョドってしまったよ。パン田は体制を建て直すと友人の白うさぎに優しく語りかけてみた。

 

「聖夜の奇跡を目の当たりにした感想は?」

 

「パ、パ、パ、パン田さんがッ……」

 

「パン田さんが?」

 

「働いてりゅ!」

 

 りゅって。

 

「こんなのパン田じゃないッ!」

 

 おやおや子猫くん、とんでも発言だ。パンダですけどー。

 

「パン田はゴミ漁ったりザリガニ食べたり指名手配されたりしてるから。絶対働いたりしないもん!」

 

 ケーサツ。誰かケーサツ呼んで下さい。公共の場で子猫が個人情報暴露してきまーす!

 

 あ、ケーサツはダメか。ハハ。

 

 するとウサくんが。メタくんをハグしながら言ったんだ。

 

「大丈夫。明日っからまた地を這うパン田さんが見れるから」

 

「……ホント?」

 

「ホントホント。さ、リンがケーキとか用意してくれてるから帰ろ」

 

「うん!」

 

 ウサくんは振り向くと。軽く会釈して行ってしまったんだ。

 

 ……色々と言いたいコトあるけどね。

 

 道行く家族連れが気付き始めたから。パン田は顔だけパンダで仕事を続けたんだ。もうね、あっという間に人だかりが出来て。サンタも形無しさ。

 

 それでは全ての生き物に向けて、パンダから最高のプレゼントを贈ろう。

 

 メリークリスマース! と、でんぐり返し。

それではまた……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ