冬のポカポカ
土曜日の20時更新です……
「私…………何がしたいんだっけ?」
「どしたのリン。大丈夫?」
心配そうに覗き込む白うさぎのウサ。この子もよく色んな事忘れちゃうけど。
物忘れ、とはちょっと違うか。何だろう。自分がどうしたいかわかんないみたいな。ヤバくね? 私。
夕暮れの商店街。寒いからウサと肉屋さんで買ったコロッケ食べながら歩いてる。いつもの緑ジャージの上に今日はダウンベスト。あったかーい。でも何かモヤモヤするわ。
「ウサ兄ちゃーん!」
「お、メタ。仕事終わりか?」
エキショーの子猫メタちゃん。近くの猫カフェで働いてんだね。
「うん。駄菓子屋で棒きなこ食べてきた」
なる。お口の周りがきな粉だらけ。ティッシュで拭いてあげようとしたらキッて睨まれました。
「自分で出来る!」
くしゃ顔でグルーミングを始めるメタちゃん。
きゃ、おきゃわ!
「じゃ、行こかリン。ペロペロし出すと長いから」
ちょっと興奮して顔赤くなった私。ウサに手引かれて歩き出す。ウチの子の前足、あったかーい。やっぱモヤモヤするなあ。
公園前を通るとベンチにぽつんと座る茶色い後ろ姿発見。ウサがピューンて跳んでく。
「三助、三助、三助ー!」
「むごふッ、ウサか……ズルチュルン」
キツネの三助くんがカップ麺のきつねうどんを食べてた。キツネがお揚げさん好きってホントなんだね。一本ずつうどんチュルチュルしてる。
「三助、今日の義手は何?」
「あぁ、コレか。ミニファンヒーターや。信者のオッサンが作ってくれた」
「欲しいコレ! 僕におくれよう」
「イヤじゃボケ」
「欲しい三助、欲しい三助、アホの三助」
「ウサ、三助くんはこれで都会の厳しい冬を乗り切らないとなんだから。ムリ言っちゃダメ。悪口もダメ」
「怒られとーるグフフ。したらワシ、信者の家で見たいテレビあるから。またなー」
そそくさと行っちゃった。カップうどんのお汁から湯気がホカホカ。あったかーい。そしてモヤモヤー。
私達もてくてくマンションに帰ると。部屋の前にはお客さんが来てた。トイプーのロッキーとモモンガヨースケくんだ。
「こんばんわ、リンさんとウサくん」
「ロッキーだ! それから……ビラビラの」
「ヨースケ! お前の友達! あと、皮膜のコトいじったら泣くからなーッ」
「ごめんねヨースケくん。こんな時間にどしたの?」
ロッキーのムキムキ前足にはトートバッグ。ネギが突き出してる。
「ようつべ動画のスポンサーさんが高級和牛贈ってくれたんだ。みんなですき焼き、どうかなリンさん」
ロッキーの動画、登録者数五十万人だっけ。
「もちろんすき焼きのたれも買ってきたから。焼くだけでオッケーさ」
「お任せあれ、オーナー!」
私は高級和牛にひれ伏すと一同を部屋にお通しした。エアコンの暖房オン。温風があったかーい。モヤモヤも最高潮!
小テーブルを囲んでちっちゃい子達がワイワイ楽しそう。「僕野菜、死んでも食べない」「草食動物の台詞じゃねーし」「また便秘になるよウサくん」
「便秘かァ……………………」
私の中にも何かが溜まってて。出そうで出ない。ウンチじゃないけど。
とりあえず今は高級和牛に向き合うのだ!
必死に具材をカット。何かドキドキする~。焼くだけなんだけど。スマホでレシピをチェック。この白いのギュウシって言うんだ。フライパン投入? うお、いい匂いが立ち込めた! みんなも一斉にこっち向く。
美味しいの出来た。
素材の旨味を百パー生かす為に。余計な事一切しなかった私、エライ。小動物達、生卵が面白かったみたい。キャッキャ言いながらウサは野菜もちゃんと食べてくれた。
みんなお腹いっぱいになって、ウサの録画したアニメ観賞会が始まってる。
私は片付けを終えるとベランダに出てみた。
十二月の澄んだ空気が肌を刺す。でも心はポッカポカだ。
あったかーい!
ふと、ウサと出会う前のぼっち生活を想う。
気付いたら涙出てた。
「あ、そっかー」
ずっと泣きたかったんだ。モヤモヤが晴れてくのがわかる。
私は中学の時以来、初めて泣いた。
それではまた……




