世界中を敵に回すお話
土曜日の20時更新です……
だらけてます。
いつも通り。暖房が効いてるこの一階ロビー、テーブルの上に寝っ転がって。アニマルセラピーの黒耳白うさぎが。
「里見ィ……何か面白いお話して」
「勤務中」
ボクは里見洋介。頭ボサボサでグループホーム『おだんご』の支援員やってます。元売れない漫画家。
「……サッカーって知ってる里見ィ?」
「え? あー、ハイハイ」
ウサがテーブルの消毒してるボクに話を振ってきました。
サッカーか。
団体競技には興味ないんで。正直ルールすらよく知りません。サッカー漫画描こうと思った事ないし。そう言えば今、世界戦? みたいなのやってたっけ。
「こないだね、テレビで観たのサッカー。みんなで金玉蹴り合うヤツ」
「蹴るのはボールだよウサ」
「ボールと金玉?」
「こだわるね金玉。金玉、蹴らない。ボール、蹴る」
「掴んだり引っ張り回したりしてた。金玉持ってる人がやられる」
「ボールな。確かに引っ張ったりもしてるけど。アレって反則じゃね?」
「あとやたらハデにスッ転ぶ」
やられたー、と言いながらウサがクリクリ回って倒れます。昔の時代劇か。でもこんな感じですよね。
「かごに金玉放り込んだら喜びます」
「ボールな。点が入るんだよ」
「1ラウンドが長くて僕、途中で寝ちゃった」
確かに長い。アレ前半と後半でやるんだから観る方も根気が要ります。小動物は寝るよね、そりゃ。
「でもね、僕サッカーの日本応援しようと思うんだ。里見ィ」
集団で金玉蹴り合うスポーツをですか。サッカーに金玉必要ないって知っても応援するんでしょうか、この金玉フェチの周年繁殖動物は。
「だって、リンが一生懸命応援してるから」
「リ、リンさんがアアアアアアアアッ!」
ボクは一瞬で描き切りました。
スタジアムでお揃いのユニフォームを着て応援する二人の姿を……。
「ウサ! ボクも一緒にサッカーの日本代表応援させてくれたまえ」
「うん、応援の応援ね」
「うん。え? は、何て?」
得意気に黒耳ピコピコさせとる。
「リンは日本を応援してる有象無象を応援するのが大好きなんだ!」
どこで覚えたその言葉。全てのそういう人達に謝れ。何て言うんだっけアイツら……サポート人間?
「他人のやるコトにあんな必死に一喜一憂してんの見てると勇気出るみたい。おめでたいって」
う~ん……リンさん。別にディスってるワケじゃあないスよね? でも世間に牙剥くあなたも好きだなぁ。猫ちゃんがシャアアアみたいな。
「もっともっと。リンが応援の応援出来るよーに。僕、サッカー日本の応援するよ!」
「オーライ、ウサ!」
「次の日本の試合。いつかな里見ィ!」
「任せとけ相棒ォ!」
ボクはスマホで日本代表の日程を調べた。
もう、負けてた。
それではまた……




