師走とクリスマスとストーカー
土曜日の20時更新です……
ペット福祉サービス『ほっぺた』の入ってる六階建てビル屋上で白うさぎとモモンガをロックオン。
「シワス!」
「はぁ? な、何いきなり」
「シワスだよヨースケ!」
「へ? あーハイハイ。シワス、シワスねウサ」
「今日は、シワスが頑張ってる!」
「だ、だなー。シワスは頑張り屋さんだから」
「シワスって何!」
「えとー、だからソレ……………………お魚?」
うん、良くってよ。
せらは空調設備の影に身を潜めながら。小動物の立ち話に釘付けかしら。
瀬良じゅりあ。小三のツインテメガネ女子。
ここのところせらは猫カフェの隷属エキショの子猫とか、路上のデスペラードパンダの面倒ばっか見てたもんだから。本業のウサへのストーキングが疎かになっちゃってたの。
久々に推しの仕事先ビルの屋上に潜入中なのだわ。
「ソレ絶対? 絶対にお魚? 命懸ける?」
「お前の気まぐれクエスチョンに懸ける命なんてねーから。ウサは何だと思うのシ・ワ・ス」
「僕はね~」
とっとこーッ!
て言いながらジャンプ一番、ウサは横でスクワットするハムスターに攻撃を仕掛けたかしら。ドロップキックってヤツ?
相手の子、何だか覆面被ってる。
バッシィィィッ!
「出た! あゆみの豪腕ラリアットーゥ!」
モモンガが実況してくれてる。ウサ、空中で迎撃されました。
「ふぅぅ……師が走るで師走。ウシャしぇんぱい、十二月のコトでしゅよ」
覆面レスラーの子、賢い。滑舌は悪い。
「十二月ってサ! もーいーくつ寝ーるとーだよね? ヨースケ」
「お、おう。……今頭から落ちてなかったかウサ」
「もういくつ寝ると、何?」
「そりゃアレじゃん……………………メリクリ……」
「クリスマス!」
「くりしゅましゅ!」
一つになったわね。
お正月まで辿り着かなかったけど。みんな楽しそうにメリークリスマスって言い合ってる。デパートのディスプレイに使えるレベルのメルヘン空間なのだわ。
「今日は~楽しい~クリス~マス~♪」歌まで始まっちゃったかしら。まだ十二月なったばっかなのに。
「今からウチでクリスマスパーティーしよ!」
「いいね、ウサ。やろやろ」
「アタチ達パリピでしゅー!」
三匹で輪になって踊り出す。
ゼンマイ仕掛けのオモチャみたいでカーワーイイ。一瞬、ここネズミの国じゃね? て思ったぐらい。
でもね。
この世界は残酷だって事、せらが教えてあげる。
「クリスマスはあと二十回以上寝ないと来ないかしらアナタ達ッ」
空調設備からバーン! て躍り出るせら。モモンガがひっくり返ってるわね。
「あ、瀬良じゅりあだー。こんにちはー」
「こんにちはウサ。今日はメリクリじゃなくてよ」
「そーなんだ」
あら、拍子抜け。
「だからパーティーは無しね」
叫びながら転がり回る小動物達。
ウフフ、たまらない。ストーキングの神様。この光景に立ち合えた幸運に感謝します。
「サンタさんもまだ来ないのだわ!」
……何か会議始まった。
誰? 誰? てざわついてる。知らないのねサンタさんの事。
「サンタクロース。イブの日にみんなのお家にプレゼント配りまくる赤服に白髭のコスプレじいさん」
「不審者?」とか「認知症?」とかのワードが飛び交ってる。ふふん。せらが求めてるのは、そんなんじゃなくてよ。
「トナカイに引かせた空飛ぶソリでやって来ます!」
ト・ナ・カ・イでヒットしたかしら。
「トナカイさんヤベー」「トナカイさんリスペクツ」ってワイワイ騒いでる。この界隈じゃトナカイ受けの方がいいのだわ。
「瀬良じゅりあー。トナカイさんに今すぐ会いたいんだけど。どーすればいい?」
「クリスマスまではムリねウサ。それまでいい子にしてたら来る確率アップするらしいけど」
一斉にブーイング来た!
ちっちゃい子達の不満そうな顔・顔・顔。
せらはもう、ギューッてハグしてツンツン突っつき回したくなるゥゥゥアアアアア~ッ!
「ハアハア……待つしかないのだわ。クリスマスとやらをね」
「いい子にすんのムリ!」
うん、そっちか。期待を裏切らないせらの推し。
「いい子にしてたら絶対来る? トナカイさん」
普通はソコ、サンタさんだからねウサ。
「保証してくれますかー?」
モモンガ、敬語でちょっとイラつく。
「トナカイが空飛ぶシステム教えてくだしゃい」
唯一そこに食い付くハムちゃん。
みんな目ギラギラさせて詰め寄って来る。せらはね、胸張ってアンサーしてあげた。
「絶ーッ対に来るのだわトナカイさん。だってサンタさんが来るんだもの! ついでに来てるハズよ!」
一瞬、静かになって。
「サンタさんて……来るの?」
「もちよ。せらのトコには毎年来てるかしら」
優しい目で「じゃ、待つよー」て言ってくれた小動物達。
それではまた……




