◯◯して欲しくないお話
土曜日の20時更新です……
「……してほしくないんだ!」
僕は小テーブルをパンて叩いて訴える。
お昼ご飯を片付けながらこっち向くリン。
「どしたのウサ。何をしてほしくないの?」
「うん。えーとね…………忘れた」
緑ジャージにエプロン姿。リンはこれから洗い物します。
「忘れちゃって大丈夫なの?」
「うーん、わかんない。どしたらいい?」
「ウサはどうしたい?」
「知りたいと思う。僕が一体、何をしてほしくないのか……そだ! ロッキーに聞いてみるよ」
ガチャ。玄関をピューンて飛び出す僕。
「晩ごはんまでに帰って来てねウサー!」
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ロッキーの働いてる犬カフェの前。仕事中だけど出て来てくれた。安定の筋肉盛り。
「どしたんだいウサくん」
「ロッキー、あのね。僕、何かをしてほしくないらしいんだけど。何かわかる?」
「ヒント下さい」
「イヤ、クイズじゃないし」
「そういえばいつも言ってるじゃないか。ウサくんの好きなアイドル……アイちゃんのやってるグループだっけ? 来年解散してほしくないって」
「してほしくない!」
「正解、出ちゃったかな」
「うーん…………ブップーだと思う。してほしくないけど」
「力になれなくてすまないウサくん。そろそろナンバーワンとしての職務に戻らないと。太客が来てるんでね」
そう言って右前足に力こぶ作るトイプードル。
「オッケ、ロッキー。次の解答者捜してみるよ!」
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「ウサのしてほしくないコト?」
モモンガのヨースケに相談してみた。まぁ、川沿い走ってたらアッチの方から飛んで来たんだけど。
「何企んでんだ? アレか、心理テスト的なヤツ?」
「別にいいよ。モモンガに期待はしてないから」
「齧歯目なめんな。俺の記憶力、パねーから。アレだ、ウサ最近お気にのアニメの話、してたろ」
「あぁ、頭に電動ドリルつけてる悪魔のヤツね」
「何かマジなトーンでサ、このクオリティを落としてほしくないんだ……つってたじゃん!」
「だねー。このまま最終回まで走り抜けてって思ってるよ。僕、毎週リンに録画してもらったヤツ保存してる!」
「それな!」
「違う」
嬉しそうに「違うんかーい」って叫んでるヨースケを残して。僕は次に向かった。
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公園のベランダに座るキツネの三助と僕。今日の三助の義手はリコーダーだ。
「最近音楽に目覚めてな。曲作ってる」
「あのね三助。僕のしてほしくないコト、わかる?」
「わからんし知りたくもない。どーせワシをイジる為のネタフリやろ?」
「伊吹山時代からの長い付き合いじゃん。三助なら僕のそういうのわかると思って……」
何かピロピロ笛吹き始める三助。情緒がおかしくなりそーなメロディ。
「こないだ。ワシがわからん話ブツブツ言うてたやろ。無料の何トカだけはキックボクシングとかPPVにしてほしくないんだ、って念仏みたいに」
「あー、ハイハイ! 最近の格闘技は地上波やんないしペイパービュンだとお金なくて観れないから。無料の動画配信TV頑張れって話」
「それか?」
「じゃない」
また変な曲ピロピロやり出す三助。もっと楽しい曲作れよ、と僕。ヒマなんで夕方まで三助ん家(公園の植え込みの中)でゴロゴロしてから帰った。
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ちょうど晩ごはん出来てて。僕はまた、小テーブルの前に座る。
「ロッキーには聞けたの? してほしくないヤツ」
「うん。だけじゃなくて自分探しの旅に出てた」
「答えは見つかった?」
リンがおかずの皿をコトンて置く。僕は思わず自慢の黒耳がピーンてなった。
海苔二枚と缶詰めのシーチキン。あと生卵一つ。
レトルトと冷凍食品は止めたけど。
止めたのはわかるんだけど。
しばらく手料理頑張ろうとしてたけど。
してたの知ってるんだけど。
僕、コロッケとかハンバーグとか餃子とか……炒飯とかカレーとかが食べたい! だから。
レトルトと冷凍食品、復活ぷりーず。
リンには料理してほしくないんだ…………。
答え、見つかったけど言えない。
それではまた……




