ウサのお友達、ロクデナシ樽本
土曜日の20時更新です……
ガチャッ。
「夕飯までに帰って来てねー、ウサ」
「うん、行ってきまーす!」
元気良く飛び出す僕。五階から、あっという間に一階まで階段を駆け降りた。階段得意。
時速四十キロってリンが言ってた。それですっ跳んでく。本気で走ると気分がアガる。故郷の伊吹山で猟師さんの銃口から逃げ切った時思い出すから。
さっき友達から連絡来た。僕はケータイ持ってないからリンのスマホにかかってくるけど……。リンは人が嫌いだからあんま電話に出ない。だからそいつにも滅多に会えないんだ。
待ち合わせ場所、近所の公園入り口がもーすぐ……ん? あれって。入り口のハードルみたいなの(車止め)に引っかかって? 人が仰向けに倒れてる。
マジでかー。今日も激ヤバじゃんアイツ!
「樽本~ッ」
嬉しくなって。ピクリともしない死体みたいな男に駆け寄る僕。黒Tに短パン。金髪髭もじゃで髪を後ろで束ねているそいつ、樽本。
「樽本ォ、どしたどした樽本ォ」
足元にしがみついて声かけしてやる。樽本とはこの公園で仲良しになった。
「……おぉ。ウサか」
目、開けても身動きひとつしない樽本。
「今な、お前待ってる間に……意識飛んでもうたわ」
夕焼け空を見つめて樽本。左手にスマホ握ったまんまだ。
「頭パーンていったかと思たで」
初っぱなから樽本ワールド全開かよコイツめ。
「頭、パーンてなるのか樽本ォ」
「なる。身体もカチコチや。ロボットみたいに皮膚もカチンコチンになってて動かん」
樽本の腕をツンツンしてみる。凄くぷよぷよだ!
「病院行ってもな。医者がどこ悪いんか、わからん言いよる。ウサ、ちょ起こしてくれ」
「わかった!」
僕はヤツの頭の方に回ると、後頭部を両前足でグイって持ち上げた。
「むがふッ」
仰向けで頭だけ持ち上げてるから変な声出た樽本。グイグイ押し上げるけど身体起こせないや……アレ? また失神してる!
「樽本、起きて。た……樽プッ」
白目&髭もじゃに吹き出す僕。さっきの『むがふッ』ってのがボディブローみたくジワる。
「起きて、起きてったらぁ」
笑いながら頬っぺたペシペシ叩きまくる。かふっと息吹き返した樽本。
「今……また意識飛んだわ。脳味噌パーンなったんちゃうか?」
「もっかい行くよー、せいのーでッ」
「ちょウサ……」
また後頭部を両前足でグイってやった。今度はむがふッとか言わなかったから一生懸命グイグイやった。グイグイグイグイ。樽本失神。
「樽……クスクス。こら樽本!」
涙流しながら白目男を蹴飛ばす。
「また眠剤あるあるとかセイホ(生保保護)不正受給してる話しておくれよ樽本~ッ」
今度は『かふっ』ってならない樽本。僕は蹴飛ばすの止めて少し観察してみる。……何か、泡吹いてピクピクって。
しばらく鼻ヒクヒクさせて考えたけど。よくわかんなかったからスマホで救急車呼んであげた。
運ばれる時、息吹き返した樽本が親指立てて言ってきた。
「医者でもムリやけどな……」
「ムリ? ムリなのか、樽本オオオッ」
樽本のこーゆートコ。夢中になれる。
それではまた……