負け犬の讃歌
土曜の20時更新です……
「え、えーと。……ポチ?」
「ワン!」
何だこれ。ボクは一体何をやらされてるんスか?
里見洋介です。元漫画家のグループホーム(障がい福祉)職員。
さっきから白うさぎが変なプレイを強要してくるんですよ。超有名な漫画のキャラ名で呼べって……。
「何だよ電磁!」
どうやらボクは相棒役みたいです。つか、ポチって犬だからウサ。お前ラビだろ。どっちかっつーとピーター何とか? の方がいんじゃね。
「ギューン! ギュ、ギュン、ギュン、ギューン!」
ドリルの音、口で言ってますね。
頭に電動ドリルくっついてる犬なんでポチ。忠実に役作りしてるようです。ボク的には、この茶番の着地点が気になりますけど。
「電磁。胸揉んでみてぇぇぇぇーッ! て叫んで」
「出来るか。ここ職場。ボク達今、仕事中だから」
ウサは毎週土曜日にここ『おだんご』でアニマルセラピーのバイトをしています。
一階ロビーのテーブルで入居者さんとダベったり、遊んだりする仕事ですね。今はヒマみたいで掃除中のボクにチョッカイかけてきてます。
「ウサくん、ダメじゃないか。里見さんは決して手持ち無沙汰とか上の空とかじゃなくて今、何かしてるッ!」
うん、掃除してる。掃除機持ってるよねロッキー。
マッチョトイプードルのロッキー。この子もアニマルセラピーのバイトです。バカゴリラです。
あ…………。
ヤベ、一階の事務所からサビ管(現場責任者)が顔出してこっち覗いてます。主婦のおばちゃんでいい人なんだけど。後で遠回しに色々言ってくるんですよ。
「掃除機かけるから。ホラ、どいたどいたー」
「里見さん、我々も手伝うよ。ウサくんやろう!」
ウサが「掃除機の悪魔」とかブツブツ言いながらテーブルから下りてきました。
ロッキーがテーブルのイスを退けてくれたり、ウサが掃除機ひっくり返らないように見守ってくれたりしています。ロッキー、ありがとう。ウサ、帰れ。
たまに思うんです。
何でボク、こんな仕事やってんだろって。
さっきの超有名な漫画。読んだ事あるしアニメも観ましたよ。
ボクは青年誌でショートのギャグやってたんでジャンルは全然違うんですが……震撼しました。その面白さに。
「現役でなくて良かったァ」てホッとする反面。
「悔しくてイラつく!」部分もまだある。
まだ残ってんのか……作家の魂。
「里見の漫画はアニメにならないの?」
掃除機の後くっついて来てるだけのウサが、絶妙のタイミングでぶっ込んできます。コイツ、こういう鋭いとこある。
「◯◯動画のプロデューサーさんがボクの作品のファンでさ。パーティーで会った時、次はアニメにしよって言ってくれたんだけど……次が打てなかったんだよね~」
飲み屋でやるグチ出ちゃった。
何やら二匹で会議が始まりました。
「……アニメにならない、て意味? 負け惜しみ?」
「だねウサくん。素直にそう言えないトコ、ダサいと思う!」
「許してあげてロッキー。売れてないから。コレがずるむけ赤ティンコ先生なの」
「器がちっちゃい赤ティンコ先生」
「ちっちゃいね、赤チンコ。ちーっちゃい、チンコ。ちーっちゃい! チーンーコ!」
前足を突き上げる二匹。施設内をちっちゃいチンココールが谺します。いつものペンネームいじり。
事務所からサビ管が出て来たけどテンションの上がった小動物達は止まりません。チンココールをしながらフロア内を練り歩きます。
「チーンーコ! チーンーコ! チーンーコ!」
エレベーターから降りて来たスタッフや入居者さん達も目が真ん丸になって。
みんな、何だか笑顔です。
「チーンーコ! チーンーコ! チーンーコ!」
ウサとロッキーは堂々と、胸を張って行進を続けます。サビ管も嬉しそうに手拍子してる。
とりあえず。
ペンネームでは勝てた(と思う)
それではまた……




