キツネと子猫とお好み焼き
土曜の20時更新です……
「キツネの三助は海賊さんなの?」
「え、は? な何て?」
商店街にある古いビルの屋上で、腹這いになって下覗いてたワシの横に。いつの間にかクシャ顔の子猫がちょこんておる。
「キツネの三助。それ、武器なの?」
「あ! お前、ウサの舎弟の……メタやっけ?」
エキゾチックショートヘアのメタ。ワシの右手の義手を食い入るよーに眺めとった。
「コレか。コレ武器ちゃうで、コテやでコテ」
「こて?」
区役所の役人撒いて、こっから様子見てたんやけど。
どーやらここはメタのシマらしい。このビルの猫カフェで働いとるんやったっけ?
「今日昼にお好み焼き作ろ思てな。コテ付けてたんや」
「おこのみやき?」
さすがウサの舎弟。このお馬鹿加減クリソツやん。ワシはちょっとオモロなった。
ウサにはいっつもイジり倒されとるからな〜。
ここはひとつ弟分でストレス発散させてもらおうやないの!
久々に昔の勢いを取り戻したワシは早速行動に出る。
「実はな……ワシ、悪いヤツに追われてたんや。でも、もう大丈夫なんで。今からウチ帰ってお好み焼き作ろかと思うんやけど、来るか?」
「うん、行く! おこのみやき。悪いヤツって何? キツネの三助」
「いわゆる政府の回しモンちゅうヤツやな」
「……キツネの三助は海賊だから?」
「海賊以上の存在。デスペラードやでワシ!」
目キラキラさせとる。
イメージで言うてみた。デスペラードて何ですか? あと、さっきからワシのコト通り名で呼ぶのは何で? まぁ、ええけど。
ワシらは商店街を出て公園までトコトコ帰った。
「いつもウサ兄ちゃんと遊んでる公園!」
「ワシ、ここに住んでんねん」
公園の奥、低木の生い茂ってるトコがワシの棲みか。さっきも役人が追い出しに来てからに。朝っぱらからすったもんだあった。
「このスペースを同郷のかめ丸とシェアしとんねん。かめ丸はこの時間ラントレで居てへんから」
「……ここ?」
メタが目真ん丸になっとるオモロ。
山育ちのワシらからしたらフツーやけど。天敵おらんしコレで十分。
「じゃ、今からおこのみやき作んぞメタ!」
「え、ここで……」
茂みの中からガスコンロとフライパンを出す。
動物支援団体とか言う連中が色々くれよるから生活には困らん。食材は近所のボケたじいさんがお供えに来よるし。
「何か……ハズい」
「したら水道の水汲んで来てくれメタ。踊りながら」
「ええーッ、踊りながら?」
「踊りながら」
困り顔のちっこいのが、ヘコヘコ腰振りながら水汲んで来たオモロ。
ワシは少なめの水で小麦粉溶くとキャベツパック突っ込んで卵とグリグリ混ぜる。フライパンに油引いて強火でジュー!
「今日は豚玉な。豚バラ乗っけて、と。見とけメタ」
義手のコテでお好みを整えてからクリッてひっくり返す。
「おわ!」
ジュジューッ。
さっきまでしょんぼりしてた子猫が飛び付いた。
「ボクにもやらせてーッ!」
「お、やりたいんか?」
「やりたい! やりたい、やりたい、やりたい!」
「アカン」
震えながら「キツネの三助がいじわる」とか「幼児虐待」とか言うとる泣き顔のメタ。シカトしてフライパンに蓋するワシ。
「こっからは弱火で蒸し焼き。そのあと一回だけひっくり返すんや」
ひっくり、でピクて反応しよるチビ助。
「…………やってみるかメタ」
「うん! やる!」
「失敗は許されへん。一発勝負や。出来んのかッ?」
「……やりたい。ボク、出来る!」
「よっしゃ。じゃ、ワシのコテをお前に預けるわ」
義手から外したコテをメタに渡してスプーンを装着。このお好み焼きはスプーンで食える程、ふっくらフワフワに仕上がるんや。
両前足でコテを握りしめて、お好み焼きと対峙するメタ。集中し過ぎて鼻水垂れとるがなー。
「今や! ひっくり返せえええいッ」
「てぇりゃ」
ポンて。
お好み焼きは一回転して地面に落ちた。
メタはお好み焼きをじっと見つめとる。ワシはメタをじっと見てた。鼻水垂れたまんまやけどコイツ。
何か緊張してきたー。
ウサの舎弟はこーゆー時、どんなリアクションかますんやろか。ドキドキして見てたら……ゆっくりとこっち向いた…………高まるワシ!
む、無表情ォォ?
「弁償するから。キツネの三助」
すん……て感じで来よったーッ!
こ、怖ッ。都会の小動物怖ッ。
「ボクの計算だと材料費二百円位だと思う。キャベツパック百十円しちゃうからね。弁償します」
「へ? あ、イヤええよ。こんなん水で洗ったら食えるから……」
「ホントにいいの?」
「かまへんかまへんて」
「じゃ、失敗してゴメンなさい(ペコリ)」
うわぉ、イヤな謝り方。
それではまた……