ヒモ男と反則女王
土曜日の20時更新です…
二階建てのオンボロ木造アパートの一階。
ここが樽本のお家。
初めて遊びに来た僕。部屋ん中はテーブル代わりのコタツと布団だけだ。
今日は樽本が目当てで来たワケじゃないの。
最近〝頭、パーン〟てならないから、ちょっとつまんない樽本。「よ、元気してたかウサ」なんて普通っぽいコト言ってくるし。
「ウシャしぇんぱい、乙でしゅ」
この子。この子に会いに来たんだ!
とっとこのハムスターあゆみ。僕に初めて金蹴りを入れた女の子。何か覆面被ってるけど……この滑舌の悪さ、間違いない。
「やっぱ樽本に飼われてたんだ、とっとこ。ところで何で覆面?」
「あ、コレ恥じゅかしいい。アタチ覆面レスラー目指してて、コシュプレで筋トレしてるんでしゅ」
樽本ムッチャ笑顔。
キモ! 樽本こんな笑ったりしないのにキモ! どしたどしたー。眠剤決まり過ぎたのかなぁ樽本。
「ウシャしぇんぱいはご主人しゃまのお友達だったんでしゅね。こないだは金蹴りとか目ちゅぶしとかしてゴメンなしゃい」
「何や、あゆ~。ウサにそんな事したんかお前。しょーがないやっちゃの~! フへへ」
デレんデレん樽本。
こんなの樽本じゃない! いつもみたいに気絶とかして生死の境、さ迷ってくれよう。
「今日はバイトないの? とっとこ」
「はい。土曜日は居酒屋とビルの清掃のバイトだけなんで。夜までフリーでしゅ」
「そか! じゃ、この前の続きやろ。プロレス」
「いいでしゅよ」
「お、プロレスごっこすんのかァお前ら! よっしゃ、じゃレフェリーやったるわ。したらゴングな、カ~ン。ほれ、ファイッ!」
こっちがハズくなるほど樽本。陽気にしゃしゃってきやがる。
トコトコトコ。
「スーパーの大根を手に取る主婦」みたく何気ない感じでとっとこが近寄ってきて金蹴り。
ガツン! 僕はヒザでガード。
すると「見切り品の弁当をカゴに入れる」くらいの自然な動きで目潰しキタ。
前足で弾く。ぱぱっ!
次の瞬間「毎度ありー!」的な頭突きが飛んできてノックアウトされちゃった。
カン、カン、カン!
「ぱふァオオオオゥゥゥゥッ…………い、いいプロレスだったぁ。とっとこ……」
眉間にタンコブ出来たし。一瞬、故郷伊吹山のお花畑に立ってた僕。やっぱコイツ強いなープロレス。
「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ! やめてえええ? お前ら。危ない、危ないわ何これ!」
樽本がアホ面でアワアワしてる。
「アタチは強い女子プロレスラーになってご主人しゃまを養わないとだから……誰の挑戦でも受けましゅ!」
「えと、そういうんやなくてぇ。人前でやったらアカんヤツやからこれ。客ドン引くわ。こんなんプロレスちゃうで、あゆ」
え、そーなの?
プロレスって、こんなんじゃないの?
……シュンてなるとっとこ。覆面の鼻のトコから鼻水垂れとる。
何か可哀そ。
プロレスの時だけ偉そーなコト言いやがって樽本。普段は人間やめますぅの一歩手前のクセにサ。
何だよ。とっとこが誰の為にバイト五つ掛け持ちしてると思ってんの。小動物は一日十分以上働くと目から血ィ吹いて死ぬんだからね! このヒモヤロー。
だんだん腹立ってきた僕。自慢の黒耳がひこひこだ!
「ラビキィィィィィーック!」
必殺の後ろ足蹴りを樽本のお腹にぶち込む。
ぽふーん。
「ご主人しゃまーッ!」
とっとこのドロップキックが僕の顔面に炸裂!
バカンンンンンッ。
吹っ飛ぶ僕。樽本が叫ぶ。
「あゆ! フォールや!」
仰向けに倒れたトコにとっとこが乗ってきた。
「ワン、ツー、スリー!」
カン、カン、カン、カン。
樽本が覆面ハムスターの前足上げながら叫ぶ。
「これがプロレスや!」
「はい。ご主人しゃまー!」
盛り上がるヒモと反則女。
うん。
うん。
何だコレ。
それではまた……




