覆面レスラーAYUMI伝説(ハムスター)
土曜日の20時更新です…
「あああああこの大空を飛び回りてーなーッ、何ものにも縛られずにサ!」
俺は奔放なかわいさが売りのモモンガのヨースケ。空は飛べない。滑空すんだけ。
ペット福祉サービスのパン屋さん『ほっぺた』で毎日十分だけクッキー作ってんだ。たっる~い仕事が終わったら、六階の屋上でウサとダベってから帰んのが日課なんだけど。
今日は先客がいた。
「とっとこだ!」
ウサが叫んどる。とっとこって何? ハムスターのあゆみだっけか。今日から入った新人な。
何か……筋トレしとるゥあゆみ。
スクワットっつーの? 後ろ足の運動しながら挨拶入れてきた。
「しぇんぱい、乙でしゅ!」
ウサが目キラキラさせてマネっこする。
「ひぇんぱい! 乙でひゅ!」
そこまで酷くねーけど滑舌。
「あ、しゅいましぇん。アタチ顎しゃくれてて滑舌悪いんでしゅ」
「それよかサ、筋トレやってんの? シゴオワで?」
「はい、モモンガしぇんぱい。アタチ女子プロレスのしぇんしゅになりたいんで!」
「女子プロレスううう?」
めっちゃ食い付いたよウサが。シゴオワにご馳走にありついちゃったよ飢えた白うさぎが。
「とっとこはちっちゃいのにプロレス出来んの?」
「はい、アタチ覆面レスラー目指してましゅ」
「覆面んんんんんんんんッ!」
ひとつなぎの大秘宝見つけた黒耳海賊団の船長。
「覆面レスラーって……その、アレ特別だから! とっとこに出来んの? 技、見せてよ。かけてみて」
「いいでしゅよ」
あゆみはトコトコ歩いてきてウサの真ん前に立つと。
ちょこんて短い後ろ足を蹴りあげた。
「はッおぉうぅおおおおおおぷふぅッ!」
お股を押さえてピョンピョン跳び跳ねるウサ。
「くッ、くふぅ……い、いい金蹴りだ、とっとこ。これなら覆面レスラー合格!」
ウサがやられるトコ初めて見たわ〜。ちょっとオモロいかも。
「あと目ちゅぶしとかも出来ましゅ」て言ってっけど。ケンカ殺法しか使えねーのかこの子は。
「しょれでは次のバイトの時間なので、これで」
「まだ働くの? 小動物は一日十分が限界じゃね?」
思わずビビる俺。
「はい、あと五つバイト掛け持ちしてるんでしゅ」
「えええッ! ……ソレって修行か何か?」
「ご主人しゃまのお小遣い稼ぐ為でしゅ」
思わずウサを見る俺。
金蹴りの練習してた。コイツ、こーゆー話は興味ゼロなんだった……。
「飼い主働いてねーの?」
「はい」
「病気?」
「はい。頭パーン病でしゅ」
どっかで聞いたコトあるよな、ないよな。つか、小遣いって何。
「アタチ、こないだまで野良ハムだったんでしゅよ。アチコチ流れてて、隣街のゴミ捨て場でコアラと揉めちゃって。下アゴ割られてヘロヘロになってたトコをご主人しゃまが拾ってくだしゃいました」
「だからとっとこアゴしゃくれてんだ。キャハハー」
「でしゅ。でへへ~」
何か意気投合しとるコイツら。
「なのでご主人しゃまのお小遣い稼ぐ為、大しゅきな覆面レスラーでスターになるのでしゅ!」
「とっとこの飼い主ってクズ人間だね!」
がっしゅ!
短い後ろ足の金蹴りキタ! ……と思ったらウサがヒザでガードしとった。
すぐさま目潰し食らって転げ回るウサ。
「がふぅぅ……ナ、ナイスコンビネーションだ、とっとこ。いろいろと合格!」
「しょれでは次のバイト行きましゅね」
あゆみはトコトコ帰ってった。
「……大丈夫か?」
「ヨースケ……僕も覆面レスラーになって、とっとこと戦いたい」
金蹴りしゅしゅってやるウサ。何だか映画のワンシーンみたいでカッケー。
ウサのライバル出現。
スデゴロのあゆみ。金玉はないけど。
それではまた……




