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恋心

土曜日の20時更新です…

 震える指を見て思いました。

 

「オッケー、一旦落ち着こう」

 

 ワンルームマンションの501号室。今度はちゃんとインターフォンを鳴らします。ピンポロ。

 

 ガチャン!

 

「里見ィ~。時間ピッタリじゃん。入って入って」

 

 何だウサか。せっかく決め顔、作ってたのに。

 

 ボクは里見洋介。ウサがバイトしてるグループホームの職員です。元漫画家やってました。

 

 今日はリンさん家にお呼ばれしたんです。正確にはウサから「遊びに来れば?」って電話があって。神速で駆け付けました。

 

 チノパンに半袖のストライプシャツ。髪もセットして左手には渋谷で人気のスイーツ店の手提げ袋。

 

 ここがリンさんのお家かぁ。ボクは顔キープしつつ玄関を上がります。女子の部屋って初めてだなー。何か獣のいい臭いがするー。

 

「獣?」

 

 細長い部屋は動物達でいっぱいでした……。

 

 ゴリラがいる。違、ロッキーか。天井から飛んでるちっこいの、ムササビだっけ。子猫ちゃんがテーブルで勉強してる。

 

 で、リンさんどこ? いないんですけど。

 

「リンは実家に用事で帰ってていないよー。だからお友達呼んで遊んでる!」

 

 コイツ、本当に遊ぶ気でボクを呼んだのか……。一気に緊張が緩んで屁が出ました。ぷぅ。

 

 動物達、大ウケ。ウケたんで帰っていいスか。

 

 気付いたらムササビと子猫ちゃんが手提げ袋にしがみついてて。「ケーキだと思う!」「チーズケーキだ!」と騒いでます。


 ウサとロッキーは行儀良く小テーブルの前にお座り。待ってんのかこれ?

 

「しょーがないな……」

 

 ボクはお土産のチーズケーキを皆に振る舞いました。皿とフォークをお借りしてと。え? 冷蔵庫にジュースあんのね。ハイハイわかりましたよ。

 

「今日はチートデイだから大丈夫!」


「今度ムササビって言ったらパンチな!」


「知らない人とお話しない!」


 色んな事言われながら。皆さんには美味しく召し上がっていただけたようです。

 

「里見ィ、めっちゃ美味しかったよケーキ。後片付けもお願い!」

 

 食べたらお昼寝を始める動物達。

 

 九月の日差しを浴びながら。


 空調の効いた部屋で寝転がる彼らを見ているとガッコの飼育係を思い出します。面倒くさかったな~アレ。

 

 洗い物を終えて帰ろうとしたんですが。

 

 リンさんに〝来たよアピ〟したくなってメモを残す事にしました。書くモノがないか室内をウロウロ。テレビ台のラックに目をやった瞬間。

 

「ええええええええええええええええッ?」 

 

『血みどろ鎖ガマ京子と首無し地蔵のグルメ旅日記』


 ボクの唯一の単行本作品が置いてあったんです!

 

「……どしたの里見ィ」

 

 ウサが起きて来ました。ボクは眠そうな小動物の目の前にコミックスを突き出すと

 

「ここここれこれッ! リンさん読んでくれたの?」

 

「ふあああ読んでた……」

 

「…………何か言ってた?」

 

「忘れたはふ」

 

「思い出せ思い出せウサ! お願い。今度好きなだけコンビニコロッケ食わせるから!」

 

「思い出しました。リンは面白いのにもう描かないのかな、と言ってました。ずるむけ赤ティンコ先生」

 

 面白いって言ってくれたんだボクの天使! 


 あの宝石みたいな瞳に映る血みどろ鎖ガマ。もう描かないのか、とも!

 

 ああ、幸せだああああ。

 

 ウサが他の子達を起こして漫画見せながらペンネームいじり出したけど。全然気にならないよー。

 

「ずるむけ赤ティンコ先生」「ずるむけ?」「赤ティンコ?」「絵が下手ティンコ」「(手拍子)……ティーンーコ! ティーンーコ! ティーンーコ!」

 

 巻き起こるティンココールの中。

 

 ボクは祝福につつまれて昇天します。

 

 絵が下手っつったヤツだけ許さん。

それではまた……

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