ヤークト、イェーガー、半額弁当 ~飛翔編~
土曜日の20時更新です……
謎の中年コンビ。貴重種二体が一列に連なってお惣菜コーナーまでやって来た。
私の後ろに隠れて二人をガン見するウサ。鼻ヒクヒクの目が真ん丸で軽くフリーズまでしてる。イヤ、どんだけ興味津々なんだよ。
そっと目隠ししてみた。
「何だよう、リン!」
「貴重種の生態を観察しちゃダメ。見て見ぬフリしてあげるの」
赤ジャージが惣菜を吟味し始める。すでに二割引。すると、
ぱんっ。
白ジャージがローで行った!
赤は惣菜を普通に選んでる。お互い無表情だ。一番人気のビーフカツにスタンバってたイェーガー達が一斉にひく。
「……おかずが気に入らなくて蹴るの?」
お尻にへばりついたウサが聞いてくる。
「あれは多分ね。うーん……そういうプレイだと思う。コイツらの関係性はアレで成立してるんだよ」
「変態?」
「貴重種」
赤白の変態二人組が弁当の方に移動して来た。
「あっ」
思わずウサが声を上げる。赤ジャージがコロッケ弁当をカゴに入れた。残りゼロ。続けざまにミルフィーユカツ弁当もカゴに。残ゼロ。
このタイミングで半額ラベラー(店員)登場。赤ジャージは無言で弁当二つを差し出しシールを貼ってもらう。白ジャージも無言で突っ立ってる。
完全なる荒らし行為。
しかしイェーガー達は見て見ぬフリ。貴重種は神の遣い。今後の狩場に恵みを持たらす。
武闘派で知られるピンクモヒカン500の佐古さんや床で寝っ転がってるビッグ市川も何も言わない。イェーガーは信心深いの。
そう。この子以外は。
「バッキャロオォォ!」
脱兎の如く、ウサが飛び出す。正に。稲妻のスピードで赤ジャージの背後に回ると、
「死ねやあぁああぁあぁぁッ」
後ろ足で必殺のラビットキックをかます。
ぽむーッ。
チビだから膝の裏辺りに決まった。ぽむって。
少し膝カックンになる赤ジャージ、表情は変わらず。
「不死身かコイツ? うさぎだったら、そ、即死なんだからなーッ」
半泣きで技の威力を訴える小動物。しかしそれを見た白ジャージの方の顔が歪む。初めて感情を露にする貴重種白。
直ぐ様、赤にローキックを打ち込んだ!
ピシッ。
足先が走って当たる。痛かったのか、貴重種赤が凄い勢いでバッと振り返って叫ぶ。
「この、下手っぴめがーッ!」
その場にいたイェーガー達が一斉に下を向く……
皆笑いを堪えるのに必死だッ!
へ、下手っぴって!
二人組はそんな空気には一切動じる事なく。来た道をまた一列になって引き返してく。
狩場は再び神聖な雰囲気を取り戻してた。
新たな貴重種が現れてここに恵みをもたらすだろう。イェーガー達はそれぞれの獲物を手にして帰って行く。
私はさっきから泣きじゃくってるウサを抱き締めてやると。半額シールの付いた惣菜のコロッケとライスを手渡す。
「今日は特別。二つね」
ピタッと泣き止むウサ。大切そうに二つのパックを抱えてレジに走ってった。
色々あった今夜のヤークト。私は様々なシーンを総括してみる。
「うさぎだったら即死、かぁ」
魂のベストワン。
それではまた……