初恋
土曜日の20時更新です…
感じちゃった。
何だか感じちゃったんだよ私を見つめる視線。買い物帰りのこの公園脇の歩道で。
この感じ、よく知ってる。小動物のちっこい目で見られてる時のヤツだ。
私は辺りを見回してみる。
いた。公園の木の枝んとこ。モモンガのヨースケくんがじっ……とこっち見てた。私も黙って見返してやる。
「ハアアアアア~ッ。何だリンか。こんちは」
ちっこいのがイッチョマエに溜め息ついとる。
「こんちはー。どしたのヨースケくん。お腹空いた? チクワあるけど食べる?」
「いらね。つか、食えね。俺、今、胸一杯」
胸一杯だって。この手の話は大好物です私。でも一旦ストップ。何か誘導されてるみたいで腹立つ。
黙ったまんま魚の死んだ目で返す。
一秒……二秒……三秒……四秒。
「胸、一杯なんですけどーッ!」
五秒で我慢の限界に達したヨースケくん。
ぴゅ~って飛んできて私の右肩、キャミワンピの肩紐にしがみついた。飛んで来る時、結構必死な顔しててちょっとカワイイ。
「んで。相手、誰なの?」
「へっ……あ、はぁ? なな何、相手って何?」
小学生みたいなリアクション。嫌いじゃないッス。
「好きな子だよん」
「……そんなんじゃねーし…………」
「気づいたらその子の事ばっか考えてる?」
「うん」
「ドキドキするけど会いたいって思う?」
「うん」
「じゃあその子の事大好きなんだよヨースケくん。んで、相手、誰?」
肩に顔ぎゅううって押し付けてくる。ヤダ、たまんないんですけどー! モモンガ推しになっちゃおっかなー私!
「あッ」
向こうからウサがてくてく歩いて来てる。やべ。デレてるとこ見られたかも……。
「リーン。お、ヨースケも一緒なんだ」
「お、おぅウサじゃん。どした」
私の肩の上でシャキッとするモモンガ。ウサの前まで飛んでった。雄同士だとこーゆー感じなのね。
「公園で誰かと遊ぼうと思って。ヨースケ、暇?」
「う、うん暇。何して遊ぶ?」
「もち。告白ゲーム」
ヨースケくんがアワアワしてる。
忘れてたー。ウチの子ガチの地獄耳でしたー。
それにしても告白ゲームって、ねぇ? ウサに好きな子なんかいないから成立しないじゃんか。ねぇ?
「まず僕から行くよー。僕の好きな子はドワーフのキナコ。ペットショップで出会いました」
何てええええええええええええええええええッ!
ウ、ウ、ウサ、好きな子いんの?
しかもペットショップラヴ!
「でもキナコは売られちゃったから。僕、毎日キナコの姿捜してる。色んなお家の窓とか駐車場の塀の上とか」
もう、号泣なんですけどおおおッ!
もう……涙止まんないよ私、これ以上ムリ! 塀の上にいるのは猫ちゃんだと思うけど、もうムリ!
「んじゃ、次ヨースケの番」
「へっ? んだよウサ、俺やるって言ってないもん」
「……ダサっ」
「は? ダサくねーし! ……京子」
「京子。何の京子?」
「ボソボソ……」
「リンに聞こえない」
ぐす。聞こえません。ウサ、ナイス。
「ムサ……」
「ムサ?」
「ムササビの京子! フッ、笑いたきゃ笑えばいいさ……モモンガの宿敵、ムササビの女の子好きになったの俺」
「でっかいだけの座布団?」
「言ってたねー俺、ムササビのコト。京子もデカイよ。でもそこがいいんだウサ。デカイと可愛さも倍に感じるから!」
「彼女とデート。行くならドコ?」
「え~ッ、デートってオマ……綺麗な星を見に行きたいです!」
「僕はね~、コンビニでコロッケ一緒に食べる!」
キャッキャ言いながらはしゃぐ小動物コンビ。
好きだーとか叫び合ってる。
もうね。私は心が洗われて今天使の気分。あ、天使はこの子達か。何かスゴく幸せ~。
天使の白うさぎがこっち向いた!
「んじゃ、次リンの番ね」
「はいぃ?」
「リンの好きな人どうぞー」
マジかー。告白ゲームの参加者だったのか私。
困ったな。でもせっかく盛り上がってんのサゲたくないし……。
「えと、ハイ。それでは発表します。私の好きな人はソウタくん。毎日木に登らされて降りようとすると下から棒で突っつかれるの。そこが好き!」
しーんとする二匹。
「デートはやっぱ駄菓子屋がいいかなー。私のお金でソウタくんが店頭の十円ゲーム機延々とやってんの。それ後ろでじっと見とくヤツ神」
ざわつく現場。何か協議始めた。
「小学生の頃の話」とか「親分子分」とか「誰でもいいから紹介」とか聞こえてくる。
しばらくしてウサが私の前までトコトコやって来た。
「リン。僕らはリンのコト大好きだからね」
何故だか励ましてくれた。
私の初恋話。
それではまた……




