小動物とスマホと発表会
土曜日の20時更新です…
「今日はお忙しい中集まってもらってありがとう。ちょっと狭いけれど、そこはゴメンなさい」
ムッキムキのトイプードルが何か挨拶始めた。小動物を集めて。私の家で。私の家なんだけど。
細長いワンルームマンションの部屋。奥からベランダを背にしてトイプーのロッキー。その前に寝っ転がってるウサ。キチンと座ってるアライグマのジョーくん。
後、かめ丸くんだっけか。亀がまだ玄関にいる。部屋までたどり着いてない。
「リンさん、じゃあジュースお願いします」
ロッキーに促されて参加者達にジュースを配るエプロン姿の私。玄関の亀さんにもね。
「みんなに発表があります……。えー、ふふ。何か小っ恥ずかしいかな……ハイ。実は今月、犬カフェでナンバーワンを取らせていただきました!」
パチ……パチパチパチ…………。
一応拍手が起きる。
うん、イヤ偉いと思うよロッキー。いつもウサと遊んでる筋肉バカのイメージだったわ。しっかり自立しててエライ。何でこの発表会ここでやるのかわからんけど。
「えーと、自分へのご褒美でね。買っちゃったんだキッズケータイのスマホ!」
一瞬どよめいた後、歓声が上がる。この子達ってスマホ好きだよねー。
「ライーンの交換しよ! ロッキー」
「いいともウサくん。これからはライーン以外のやり取りは禁止だね!」
さっきまでピクリともしなかったウサがQRコード読み取って「追加、追加」とかはしゃいどる。それ、私のスマホだよね?
「ジョーも交換しよ!」
「ウサさん…………私が屋根裏を間借りしている家のおばあさんはイエデンしか使われないので。スマホはちょっと……」
「そか。なら、いい。つまんね」
「しッ……失礼しました。え、えと、えと、そうですね。あ! じゃあ、その辺にいる人間から強奪してきましょうか? ……正解?」
「違」
あたふたしてるジョーくん。頭抱えて「正解がわからないのですウウ!」て叫んでる。
「そんなコトよりウサくん。SNSの呟くヤツ始めたんだホラ!」
「え、え、え? 嘘ッ凄ッ! ロッキー顔出ししてるじゃん……二日でフォロワー三億?」
「はは、三千だよ。ゼロみっつ」
「なーんだー! ビビった。キャハハ」
イヤ、凄いんですけどー。
ウサが余裕こいて「しょーがないからフォローしてやるか」とか言ってるー。何か私まで恥ずー。
「これからは何でも呟こうと思うんだ。まずは写真撮るからね、このジュース。何味かわかんないヤツ」
や、やめて~。
スーパーの激安ジュースを紙コップに入れただけ。決して「小動物だし。ま、いっか」的なアレじゃないからぁ。晒すの堪忍して~。
「リイイイイ、イイイイ、イイイイン!」
ウチの子が跳んで来た……何かあるな。得意そうな顔して。
「リン、僕も呟くのやりたいんだ!」
「何呟くの?」
「お友達と遊んだコトとかねー、お仕事とか、冷凍食品とか、アニメとか!」
「三番目ダメ。絶対」
「あ、レトルト食品もだ」
「それもダメ! 絶対!」
しょんぼりするウサ。この子お友達の前だと我慢して駄々こねないんだよね。ロッキーとジョーくんが駆け寄って来た。
「ドンマイ! ウサくん。きっとリンさんは冷凍食品が苦手なんだ。嫌いな人に無理強いしてはいけない」
「大丈夫ウサさん。リンさんは高貴な方だから庶民のエサに興味がないだけなのです」
「え? でも毎日食べてる……」
もうやめてええええ~。
神様、料理が出来ないってそんな罪な事?
ウサは飯テロやる気です冷食とレトルトで。トイプーとアライグマが真っ直ぐな目をしてイジってきます! 無理矢理遠いとこに着地しようとします!
とりあえずロッキーのSNSフォローしとかないと。何、呟かれるかわからんし。
「ジーュースーおーいーしーかーっーたー」
あ、亀さん到着。お礼言ってくれた。
「かめ丸くん。君もウサくんを励ましてくれないか」
「いーいーよー」
かめ丸くんはゆーっくりとお辞儀した。二十秒位かかってる。「何でお辞儀?」て思いながら皆、辛抱強く待つ。
「リーンーさーんーとーいーぶーきーやーまーのーかーみーさーまーにーかーんーしーゃーだーねー」
小動物達も私も「!」てなった。
かめ丸くん、いい子!
ん……。
皆どしたの? 何か囲まれましたけど私。
「リンさん。今日はこんな素敵な会を設けてくれてありがとう!」
イヤ、勝手に始めたんだよねロッキー。まぁ、おめでとうだけど。
「お招きいただき光栄です。リンさん!」
うん、招いてないからねジョーくん。でも、ようこそだよ。
「リン……いつもワガママ言ってゴメンなさい。僕、リンの作った卵かけご飯大好き!」
割るよねー卵! いくらでも割っちゃうからウサ。
……アレ?
何で私泣いてんだろ。
気持ちが、こ~ホンワカしてきた。
「どういたしまして。今日はゆっくりしてってね」
それではまた……




