コンプライアンス的に問題のないお話
土曜日の20時更新です…
イラ立ってる。明らかに。
さっきからピリついてるウチの子が。足ダンこそ出てないけど。長椅子に並んで座ってると微妙な振動が、ジャージ越しに伝わって来た。
「……何かゴメンね? ウサ」
「リンが謝るコトない。医者のうんこ野郎がトロトロやってるせいだもん」
超高速の貧乏揺すりで白うさぎの足、残像が見えてます。小動物は待つのが苦手。
「具合の悪いリンをこんなに待たせて……コロす気か医者めーッ!」
心配してついてきてくれたんだけどね。
ここ、歯医者だから。多分死なないし、まだ十分も待ってないから。
「僕、今から診察室カチコミに行って来ます!」
「ウサくん。歯医者は治療中に歯しか見ていない。そこを狙うんだ、金玉をね!」
一緒についてきたマッチョトイプードルのロッキーがアドバイスを送る。アンタ、何言ってくれてんの?
「だね! ロッキー、僕のインローでぐしゃぐしゃにしてやる」
ウサの金蹴り魂に火ついちゃった。
ぐしゃ、とかって。潰れたらアレ、男の人凄いのかなー? お股押さえて悶絶してるとこ想像すると……キュンてなる。
「じゃ、行ってくるよリン!」
私が金蹴り萌えしてる間にテテテーって走ってって。受付の女の人に止められて戻って来た。
「ダメだよロッキー。あのオバサン怖い……静かにしないとメッて言われた」
「歯医者を倒すにはまず怖いオバサンをクリアしないとね。ウサくん、作戦会議だ」
待合室には私達と小学校低学年くらいの男の子がひとり。ちっちゃいのに一人で歯医者さんて、それだけで勇気がいるだろうに。絵本手に持ったまま固まってます。
「ウサ、ロッキー。お医者さん攻撃ダメ絶対!」
「医者? 何言ってんのリン。僕らはオバサンを倒す為のチームなんだ!」
もうオバサンに夢中なのね。
「ロッキーがオバサン引き付けて。僕が後ろから金玉蹴ってやる」
「ウサくん残念だけど。オバサンに金玉は……ない!」
「え、ないの金玉! オバサン?」
金玉とオバサンが飛び交う待合室。
目を真ん丸くしてる男の子の耳を。出来れば全力で塞いであげたかった……人の金蹴る側よりも蹴られる側に。そういう大人になって欲しい。
「目には目を歯には金玉をなのに……。くそ! 一体どーすればいいッ?」
歯医者だけにね。何か上手い事言いながら頭を抱え込むオバサン討伐チーム。
「そうだ、アレで行こう!」
ロッキーが閃いたみたい。この子、真面目なんだけど結構バカなんだよなぁ。
「爆竹で襲撃するんだ。オバサンは声デカいクセにデカい音にはビビる」
「天才かよ……それだ、ロッキー!」
はい、おバカキター。
「前に買ったの、まだ一箱残ってた!」
「勿論さ。……だだ、アレ忘れてないかいウサくん」
「アレ?」
「小麦粉爆弾」
「あ! ガチャガチャの玉に小麦粉入れて爆発させるヤツ」
「今度やろうってね。ガチャの玉も集め終わったし、小麦粉も準備してた……」
「小麦粉爆弾かあああああああ」
それっきり黙り込む爆竹兄弟。千載一遇のチャンスキタ。私は痛む奥歯を噛みしめつつ、ミスの無いように語り掛ける。
「行きなさい……私の事はもう大丈夫だから。迷惑のかかんないとこでやるのよ。小麦粉爆弾」
ウサはハグしてから、ロッキーはポージングしてから元気一杯遊びに行ってくれた。
小動物による歯医者さん爆竹テロを未然に防ぐ事に成功。私はひと息つくと、まだキョドる男の子に優しく微笑んだ。
「ひとりで偉いね~」
ちゃんとシカトしてくれた。
それではまた……




