ヤークト、イェーガー、半額弁当 ~降臨編~
土曜日の20時更新です……
二十時十五分。
中坊の頃からの戦闘服。緑ジャージに身を包んだ私は辺りを注意深く観察してた。
狩場には既に十人のイェーガーが集まってて、半額ラベラー(店員)の登場をそれぞれのポジション(床とか柱とか)で待ち構えてる。
今日の一番人気はお惣菜の『ビーフカツ』だ。四パックに対して三人がスタンバってる。薄くて大きめのカツにデミグラスソースの相性バッチリ。下に敷いてあるパスタの量もハンパない。
私達は家にご飯ないんで今日は弁当狙い。
ウサは大好物の『コロッケ弁当』と『ミルフィーユカツ弁当』をロックオンしてる。一個ずつ残アリ。もう草食動物とは思えないくらい目がバッキバキ。
私は一番値の張る『鮭ハラス弁当』一択。値引率の高いのしか狙わない。まぁ、旨いけどね。
イェーガーは獲物の状況やそれぞれの立ち位置で、だいたいの流れを予想出来る。「楽な狩りになる」狩場の雰囲気はそんな感じだった。
でも前の狩場で『貴重種』と遭遇してる私の胸はざわついてた。
今日はヤバい。場そのものが厳かな気配に包まれてくような、この神聖な空気感。とてつもなくヤバい何かがやって来る予感がする……。
二十時十八分。
それは、来た。
「リン、あれ見て!」
さっきまで虎の目になってたウサが興奮状態だ。
ぱんっ。
青果コーナーの方からその二人組はやって来た。
四十代位の中年男性コンビ。
どちらもジャージの上下。
何故か一列に並んで歩いて来る。
先頭の赤ジャージ男は、くりくりパーマの短髪で四角い黒縁メガネ。髭剃り跡が濃いい。買い物カゴを腕に掛けてバックを肩から背負ってる。
すぐ後ろの白ジャージ男は、ズラのような斜め前髪でつり目。手ぶらだ。
ぱんっ。
さっきから鳴ってるこの鈍い音。
ぱんっ。
白ジャージが赤ジャージのお尻辺りに。
ぱんっ。
ローキック入れながら歩いてる。無表情で。
そして驚くべき事に。赤ジャージも全くの無表情! まるで何事もなかったかのよーに、一列に並んでこっちにやって来る二人。
「まるで聖者の行進……なワケないか、キモッ!」
あ、キモって言っちゃダメだ私。好奇心丸出しでジャージにしがみついてくるウサを静かに宥める。
「ガン見しちゃダメだよウサ」
「何で? アレ何で蹴ってんの?」
大好物を見つけたうさぎの頭を優しく撫でてやりながら
「貴重種だから」
イェーガー達に緊張の色が走る。 そう、紛れもない。この狩場に貴重種が現れた! しかも極上のが二体も。
『神の遣い』『狩場に恵みをもたらす者』
そして私にはわかる。
「コイツら、荒らしだ!」
それではまた……