瀬良じゅりあ(九才)の独白
土曜日の20時更新です…
「……へでゅーうッ!」
最後の一回、ロッキーが気合いで上げたわね。何か変な声出てたけど。
懸垂が終わると「お疲れ様。今日も力強いパフォーマンスだったよ。ゆっくり休むといい」って筋肉に優しく語り掛けてる。変態テディベアカットのムキムキね。
「ロッキー。トレーニング終わったのかしら?」
「あぁ。今日も筋肉と良いコミュニケーションが取れたよ、じゅりあ」
ランドセルにメガネのツインテ。せらの名前は瀬良じゅりあ、小三なのね。
ロッキーはマッチョなトイプードルで、いつもこの公園でトレーニングしてるの。せらはこの狂ったワン公に興味津々なのだわ。
「いつものヤツ。召し上がれ」
お皿に特製ミルク1リットルを入れてあげたのね。毎日学校の給食で余った牛乳を持って帰って。プロテインをたっぷり混ぜて与えているの。この筋肉バカがどこまでデカくなるのかとても楽しみ。
「いつも済まないね、じゅりあ。遠慮なく頂くよ」
ロッキーがじゅるるーってイッキしてる。やっぱりバカだわこの子。
「これから私はウサくんとここで遊ぶ」
「あら、そうかしら」
「今日こそ勝ってみせるとも。じゅりあの為にもね!」
ロッキーのお友達の白うさぎ。
コイツはせらの知る限り最もイカれた小動物だわ。この二匹はいつも遊びで競争してるんだけれど。ロッキーはまだ一度もウサに勝ててないみたい。
「…………ロッキイイイイイイイッ!」
来た。歩道を時速四十キロで走ってくるわね。
ずさささぁぁぁぁぁッ。
「お待たせロッキー! 今日は何して遊ぶ?」
「泥だんご、なんてどーかな? ウサくん」
「いいね。やろやろ!」
ウサがじっとせらを見てくるの。コイツは勘がスゴくいいから、せらの事警戒してるのね。
それにしてもロッキーは相変わらずだわ。
あれだけトレーニングして泥だんご作りで勝負だって。脳ミソまでムキムキなのかしら。
二匹は公園の別々の所から各々土をゲットしてきた。一応こだわりがあるみたい。それに水道の水を加えてぎゅむぎゅむ握り始める。
「このだんごは〝アヌビス〟と名付けるよ。古代エジプトの冥界の神さ」
「僕はねー、プニプニ丸」
アヌスだかプリンだか知らないけれど。後は永遠に砂かけて磨く、の繰り返しなのだわ。
地味ね。
展開がないとつまらないわ。公園で犬と兎がおだんご磨いてるだけ。何が面白いのかしらコレ。
……あら? ウソ、ちょっと待って。
ロッキーのおだんご。黒く輝いてるのだわ。
つか、光ってるピカーって。え? ウソでしょ。ウサのおだんごも白く輝いて……まるで宝石のようなのねどちらとも。とってもキレー! せらは欲しいかしらコレ!
「これは、その……ホラ。どちらが美しいか決める勝負なのかしら?」
「ん、何言ってるのかな? じゅりあ。さぁ、ここからが本番だね。ウサくん」
「だね、ロッキー。やるか。だんご落とし」
「だ、だんご落とし?」
そう言うとイカれうさぎが立ち上がって自分の白いおだんごを……ロッキーの黒いおだんご目掛けて落としたのだわ!
ボコン。
「へえええええええええええッ?」
思わず変な声出たけど。
それからこのバカ二匹は代わりばんこに、お互いのおだんご目掛けて落としっこを始めたのね……。
ボコン、ボコンて。
キャッキャ言いながらおだんご落とし合って。
せらが机の上に飾ろうかしらと一瞬でもときめいたおだんご達が、今は見るも無惨……てか、白いのだけアチコチ凹んで傷だらけ。
どうしてかしら?
そう言えばロッキーがおだんごニギニギしてる時、前足の血管とかパンプしてた。
フルパワーで圧縮してたのね!
まだ脳ミソ生きてるんだわ!
「ウサくん。今日こそ勝たせてもらうよ」
ベッコベコになった白いおだんご。ロッキーは止めを差そうとしたわ。アホの子みたいにガッツポーズまでして。
バコ……んんん。
あら。落とした黒い方が割れちゃったけど。
「なッ何イイイイイイイッ?」
よく見たら白い方の凹みのトコから、何か石みたいなヤツの先っぽが出てるのかしら。
「石です」
ウサ公が言ったわね。やっぱクレイジー。
「石入れてたのかー。こんな手があったとは……完敗だよウサくん!」
やっぱり脳ミソ活動してないのねロッキー。
キャッキャじゃれ合ってる内にお金玉の蹴り合いを始めた二匹。
とても楽しそう。
小動物って子供に似てると思うの。だからこんな風に遊べれば子供同士でも楽しいのだわ、きっと。
せらにもクレイジーなお友達が欲しい。
それではまた……




