最終的には目的地に辿り着く小動物
土曜日の20時更新です…
今から悪いコトしてやろうと思う。
僕は自慢の黒耳をひこひこさせながら考える。どんな悪いコトしてやろーかな。
とにかく人に迷惑を掛けたいんだ!
前にスーパーの店ん中で〝うんち〟しまくったコトあるけど。今度はもっと凄い悪さしてやる。ただしリンには絶対バレちゃダメ。嫌われたくないから。
リンにいい子してもらってるけど実は悪い子。
みたいな!
僕は街中を無意味に駆け回りながら考える。どんな悪いコトしてやろーかな。
都会で生きてると何かモヤモヤする。
動物同士の関係もムズいんだよ。山だとシンプルに喰うか喰われるかおちょくるかの三つ位なのに……何かめんどい。面倒くさくって草食うわ兎だけに。
「…………ウサさあああああああああん」
キキーッと急ブレーキをかける僕。川沿い辺りを走ってた。『ほっぺた』で一緒にクッキー作ってる仕事仲間、アライグマのジョーが手をブンブン振ってる。
「どうされましたかウサさん? 狂ったように走り回っておられたようですが……」
「ジョー。これから人にう~んと迷惑かけようと思うんだけど。やり方がわかんないんだ!」
「悪さがしたいと。ハハ、承知いたしました。そんなの簡単でございますよ。お金持ちの家に火をつければいいのです」
「……そんなんじゃない…………多分」
「しッ……失礼しましたッ。えーと、ではでは…………ダメだ! 申し訳ありませんッ。金持ちの家に火をつける以外に悪いコトが思いつかないのです……」
「もう、いいんで」
崩れ落ちるジョーを置いて僕はまた、走り出した。
そのまま暴走して公園の方まで行くと、木の上からまたまた『ほっぺた』の仕事仲間、モモンガのヨースケがヒューって滑空してきた。
「どしたウサ血相変えて。ウンコか?」
「違。今から悪いコトしてやろーと考えてたらテンションぶち上がっちゃって。走ってた」
「怖。笑顔で何言ってんの……悪いコトって?」
「うーんとね。何だっけ。金持ちの家に火をつける」
「ヤバ。犯罪だからソレ。引くわマジで。だいたい何で悪いコトしよーと思ってんのよ」
「わかんない……。でも金持ちの家に火つけちゃダメだよね。あんがとヨースケ。ムカつくけど」
「ムカつくんかーい!」
嬉しそーに突っ込んでくるちっこいのを放ったらかして、僕は走り出す。
しばらく走ってると僕の中にある疑問が湧いてきた。
何で僕は走ってんだろ?
ピタと脚を止める。
「ん?」
どっかの路地だけど側溝……? アレに人がうつ伏せ状態で全身ハマってた。見覚えのある金髪の襟足に黒T黒短パン男。
僕はうんしょ、うんしょ、てソイツを引き摺り出してやる。
「どしたどした樽本~。こんなトコで寝てたら風邪引くぞ~」
髭もじゃの樽本が「かふっ」て言いながら息を吹き返した。
「……おぉ、ウサか。…………今な、コンビニおにぎり買いに行こう思て。歩いとったら頭パーンなったわ。お前こんなトコで何してんの?」
「……わかんないんだよ。僕何してんだろ?」
「まぁ、生きてたらそんな事しょっちゅうあるって。ウサ、ちょ起こしてく……あ、しまっ」
「わかった!」
僕はヤツの頭の方に素早く回ると、後頭部を両前足でグイーングイングイグイって持ち上げた。
「へむれッ」
仰向けで頭だけ持ち上げた形で失神する樽本。
首、決まっちゃったのかな? 変な声出たね!
僕は空を見上げてみる。
目的を果たせたような気がした。それが何なのか思い出せないけど。
清々しい気持ちになった僕は。
樽本のポッケからスマホを取り出して、
そっと救急車を呼んであげた。
それではまた……




