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ドワーフのキナコ~運命を切り開く瞬間~

土曜日の20時更新です…

 カランカラン。勢い良く店のドアが開く。

 

 ……また来た。

 

 アタシのケージに一直線に駆けてくる。黒耳白うさぎのウサさん。

 

「キナコキナコキナコーッ!」

 

 この名前、嫌い。ネザーランドドワーフのキナコ。いかにもって感じで。アタシ的にはドブネズミ子とかでいいと思ってる。

 

「相変わらずちっちゃいなーキナコ。そんなちっちゃいと一発でカラスにやられるぞ」

 

 そういう品種なんですけど。ゴメンなさい。このペットショップで二万円で売られてる小さなうさぎ、それがアタシの全て。

 

「カリカリばっか食ってるからおっきくならないんだ。顔上げてこっち見てみ。コロッケでも食べに行こ!」

 

 このカリカリ、ペレットって言うの。つか、ここアフターとかないから。来る店間違えてるよ。

 

「ねーッ、遊びに行こ! 公園でコロッケ食べながら鳩捕まえるゲームしよ」

 

 鳩捕まえてどーすんの……何にしても管理されてるからムリ。アタシもジャンクフードとか食べてみたいけど。これ以上大きくなるとマズイんだって。


 売れ残りなんだアタシ。

 

「キナコって二万で売ってんのかぁ~」

 

 はい。主の新しい家族になって癒しを提供する。


 それでお店にはお金が、アタシには生活が手に入るシステム。子うさぎの時は今の倍の値段だったけどね。

 

「ふーん。見切り品てコト?」

 

 です。アタシ以外の子にそんなコト言ったら殴られるかもしくは殴られるかだから。気をつけて。

 

「僕が買っちゃおっかな~」

 

 えっ……。

 

「僕働いてるから。月三千五百円稼いでる!」

 

 …………。

 

「でも貯金ゼロ! 全部コロッケ代!」

 

 ……今、一瞬だけウサさんに買われてく自分を想像してみた。うさぎがうさぎを飼うって、どゆコト?

 

「僕キナコ好きだからお嫁さんにしたい」

 

 え?

 

「初めてお店のドア越しにキナコ見つけた時から好きだったよ。僕と結婚して下さい」 

 

 え、ええええええええええええーッ!

 

「キナコ好きだ、キナコ好きだ、キナコ好きだ、キナコ好ききだキ、コ好きだキナコ?」

 

 噛んだ! そして見失った!

 

「二万貯金する。コロッケ我慢するから。それまで待っててキナコ! うぉーッ」

 

 そう言うとウサさんは走って帰ってった。アタシは意味もなく周りをキョロキョロするばかり。

 

 い、

 

 いきなり雌として絶頂期キタァァァァァッ!

 

 ……いやいやいやいや、でもちょっと待って。

 

 頭がパニクってる。冷静な判断出来ないよコレじゃ。アタシ誰? キナコ。オケ。もっかい今の話整理してみよ。幾つか気になった点もあるし。

 

 まず彼……彼だって。ヤバ。えと、彼が働いてるコトに驚いた。

 

 ここは好評価ね。ただし月収三千五百円だから。うーんと、ひーふーみーで…………二万貯めるのに半年? 半年かかる。多分。

 

 次に稼ぎを全部コロッケに突っ込んでる件。

 

 これはマイナスだな~。生活に計画性がないし我慢の苦手な性格が見え隠れしてる。ウン。

 

 半年間、コロッケ絶ちしてお金を貯めてアタシを迎えに来る。……これは待つ身にとっては一つの賭けだと思うよ。普通ならね。

 

 でもアタシに関してはリスク、ゼロ。

 

 だって待つのに慣れてるし、結果に繋がらないのにも慣れてる。売れ残りの看板は伊達じゃないから。

 

 それよかもっと大切なコトがある。


 ペットではなくお嫁さんとして行くのであれば。

 

 ウサさんをどう思ってるんだアタシは……。

 

 正直、今回のプロポーズはスゴく嬉しかった。カミカミでも。

 

 彼の黒耳はキュートだし、行動力も感じる。いい個体の雄だと思う。だけど今までペットとして飼われる生活しか考えたコトなかったから……何だか怖い。

 

 幸せになるのが怖い!

 

 て感じ……。

 

 まぁ、アレだよ。今から少しずつ彼のコト……その、好きになれたらな~って。お嫁さんにしてって思えるようになれたらな~って。

 

 そう考えると何か、こう、心がホクホクする! これから半年間、彼を待ってみよう。

 

 アタシは何だかワクワクして、

 

 今までにない表情で、

 

 耳をぴんと立てて、

 

 ケージにちょこんと座り直してみた。

 

✳✳✳

 

 秒で売れた。

それではまた……

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