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この樹の根元にはコレがいる(らしい)

土曜日の20時更新です…

 桜の季節が来た。

 

 普段は静かなこの公園も今は人で溢れ返っている。毎年二週間程。花を見に来る者、酒を酌み交わす者、お弁当を食べる者、皆それぞれのやり方で集う。

 

 この国の人間は何故こんなにもこの樹を好むのか。私は根の上に立ち、その幹にもたれかかってみせる。

 

 ふと、人の流れの中に立ち止まってこちらを見つめる兎と子猫の存在に気づく。黒耳の白いのとクシャッとした変な顔の。奴らは各々リンゴ飴を手にして私を凝視していた。

 

「何か用かな?」

 

 声を掛けると兎が応える。

 

「……小学生?」

 

「いや。違う」

 

 随分と若く見られた。おかっぱ頭のせいばかりではない。私は女性としてもかなり背が低い方なのだ。

 

「着物のモデルとかやってんの?」

 

「モデル? 私は普段から着物なんだよ」

 

「リンは普段ジャージ着てる」

 

 飼い主の事だろう。少し興味が湧いた。

 

「リンゴ飴、好きなのか?」

 

「雰囲気だよ。コロッケの方が好き」

 

「そっちのチビ助は?」

 

 兎の後ろに隠れた。変な顔だが愛らしい。

 

「メタ、ビビったら負けだぞ。観の目強く、見の目弱く。やってみ!」

 

「……うん、わかったウサ兄ちゃん」

 

 子猫は前に出てくると遠い目をしてきた。

 

「偉いなチビ助」

 

「……褒められた」

 

 嬉しそうに兎に報告する。愛らしい。変な顔だが。

 

「僕は伊吹山のウサ。コイツはネコカフェのメタだよ」

 

「私は雫。ウサは伊吹山の生まれか。古くからある霊峰だな。ネコカフェとは何だ?」

 

「コーヒーとか飲むトコだよ。そこにダラダラしたネコ達がいるだけ。な、メタ」

 

「え……うん。まぁ、そーだけど」

 

「お金取るんだよ。な、メタ」

 

「ダラけているのにか?」

 

「そ、ダラダラしてるだけなのに。な、メタ」

 

 メタは顔をクシャッとしながら泣き出した。

 

「えふ、グス。ウサ兄ちゃん……当たりつーよーい」

 

「泣くなメタ。変な顔が余計クシャクシャだぞ」

 

 やはり変な顔なのか。しかし愛らしい。

 

「ウサの言う通りだメタ。男の子は泣いてはいかん。イジメっ子にやられてしまうぞ」

 

「う……たまに先輩にイジメられるゥ~」

 

「そうか。では私が喧嘩の仕方を教えてやろう」

 

 私は木の幹を相手に見立てると

 

「いいか。こうして、こうだ!」

 

「え、こう?」

 

「いや、こう。こうだメタ!」

 

「こう?」

 

「こうか、雫?」

 

「そうだウサ。いいぞメタも。こう、こうだ!」

 

「こう!」

 

「こう!」

 

 二匹は一生懸命頭突きの型を繰り返してくれた。

 

 兎と子猫には私のような角は生えていない。

 

 だから〝鬼〟の技を学んでも必殺にはならない。それは百も承知の上……少し楽しかったのだ。

 

「雫姉ちゃんは明日もここにいる?」

 

「いや、もういない。これでサラバかなメタ」

 

「そっか……」

 

 子猫の手を握って歩き出す兎。その後ろ姿を見送ると、私は再び木の幹にもたれかかった。

 

 かれこれ千年の間そうしてきたように。

 

 人間達をただ、眺めている。

それではまた……

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