鬱うさぎと欲しがりモモンガ
土曜日の20時更新です…
ペット福祉サービスのパン屋さん『ほっぺた』
六階建てビルの一階にあるこのお店で、僕は一日十分間だけクッキー作ってる。
仕事が終わるといつも屋上。
手摺の下に鎮座する僕とモモンガのヨースケ。これから恒例のダベりタイムがスタート……なんだけど。
「何かここんとこ元気ないじゃんウサ。ひょっとしてアレか。ロス関係?」
「ロスって何?」
「喪失感っての? 好きな番組終わって寂しいよー、みたいな」
「アニメロス」
「アニメかー。俺見ないからわかんね」
「だいたい三ヶ月で終わる」
「番組改編てヤツな。でも人気出たらパート2とかあんだろ?」
「次まで待てない」
「小動物は待つの苦手だかんなー」
「コロッケロス」
「コロッケは食って無くなっただけじゃね?」
「喪失感」
「あ、それな。そー感じたんなら立派なロスだわ。俺のロスは……」
「茶色ロス」
「へ? な、なんソレ?」
「僕のブラウンどこ?」
「うんちのコト? トイレで流したんじゃねーの……俺のロスはアレだ。大空を自由に飛びたい気持ちロス!」
「……」
「イヤイヤ、スルーって!」
「飛べるでしょ」
「それな! 毎回言ってくるけどサー。俺モ・モ・ン・ガ。滑空すんの。空飛べません。そしてここからは絶対に飛ばない。アイ・キャント・フライ、オッケー?」
「はぁあああぁぁあああああああぁぁぁぁッ……」
「今日のため息重ッ! とにかく俺は部屋ん中イキって飛び回るしか能のないモモンガです」
「僕は年中白いうさぎです」
「ハイ? えと……だからその、俺は飛ばねーから!」
「そか」
「イヤイヤイヤ! ここは『隣のビルに飛び移れ』とか俺を追い込むトコじゃないのォ?」
「引きこりだったコトある僕」
「あ、うん。そーなんだ? へぇ~意外……」
「ムササビなら飛べる」
「はいいいいいいいッ? 何言っちゃってんの、アイツらデカいだけで全然可愛いくないわ! 顔も怖いし」
「どこが違うの?」
「風呂敷! アイツら木から落っこちる風呂敷。俺らは森を華麗に舞うハンカチーフだから!」
「そーだね」
「えッ……あ、うん。だろー? イヤ、何か違うな。そこは『前から気になってたんだけど~』て俺を問い詰めて谷底に突き落とすトコじゃね? やっぱ変だわウサ」
「そーかな」
「……あのサ。アライグマのジョーから聞いたんだけど。居酒屋で誕生日会やったんだって。俺抜きで」
「うん。ゴメンなさい」
「謝んのかーい! 素直、いい子! キモッ!」
欲しがりのモモンガがやたら元気だ。
皮膜のダサい小動物のクセに突っ込みたくてしょーがないんだよコイツ。
僕、うさぎだからボケとか上手に出来ないってのもあるけど。この時期はちょっと調子が悪くなるんだ。ユーウツっての?
これから春にかけて。
体毛が夏毛に生え変わる。
ホントは茶系の毛色になるんだ野うさぎだから。でも僕は白うさぎのまんま。年中毛色が変わらない。
この毛色のおかげで山じゃ春、夏、秋はまあまあの地獄を見てきた……。もうね、色んなヤツから狙われまくりなの!
目立つんだスゴく。一時期巣に引きこもってたコトあるくらい。
だけどこんな僕の毛色をリンは誉めてくれる。
一番好きな色だって。
都会には天敵も猟師さんも居ない。だから誰も僕を傷付けたりしないって。
白うさぎでも大手振って生きてけるって。
僕は大丈夫。
…………よし!
ヨースケが突っ込み待ちしてる。
とりあえずヤツを血祭りに上げちゃおうかな。
それではまた……




