伊吹山リベンジャーズ
土曜日の20時更新です…
年が明けた。
僕は近所にある市立公園のベンチに座ってる。
寒い日に日差しに当たってると、ポカポカして好き。リンがうるさいからベンチコート着てるけど。お耳ひこひこのお鼻ヒクヒクだよ。
お正月の真っ昼間。人も鳩もいないし道には車も走ってない。
「あー、何か清々しい気持ち。久しぶりにオシッコしながら走り回るか!」
腰を上げようとした時、公園に茶色っ毛の犬みたいなのが入って来た。そいつは俯き加減でテクテク歩いてくると僕の前でピタと止まる。何コイツ?
「あ……」
思い出した、この三角耳。雰囲気変わっててわかんなかったけど。
「お前、キツネの三助じゃん!」
まだ俯いたままの三助。相変わらず右前足の先っぽがない。てか、僕と目を合わせようとしない。
「……やっとボソボソ…………ごにょごにょ」
何か言ってる。
「は? 声ちっちゃくて聞こえないよ」
「やっと……ごにょにょ見つけ……………………ボソソ」
まだ顔も上げない。
コイツこんなキャラだっけ? 確か故郷の伊吹山じゃイケイケどんどんのオラオラキツネだったけど。
「どしたどした三助ー。変なモンでも拾い食いした? 僕のコト追いかけ回してた頃の勢いはどしたー」
「……都会…………」
「都会の人混みに埋もれてメンタルやられた?」
コクって頷く三助。当たった。何か面白いコレ!
「…………お前」
「お前を追いかけてここまで来た」
コクコク。当たり!
「忘れ」
「忘れてないだろろーな」
「お前」
「お前を追いかけてここまで来た」
首をぶんぶん振る。
「ワシ」
「お前がワシにしたコトを!」
「お前」
「お前を追いかけてここまで来た」
頭抱えてる。
「復讐……ワシ」
「お前に復讐する為ワシははるばるやって来た!」
ぴって先っぽのない右前足を指してくる。
正解だ!
ちなみにコイツの前足、僕がやったんだけどねー。
だってしつこく襲ってくるから。猟師の仕掛けたトラバサミのトコまで誘導して罠にかけてやったの。あの頃はヤンチャしてた。
「……でも、どーやって僕の居場所突き止めたの?」
「術」
そうだった。コイツらたまに変な術使うんだ。確か三助のおばあちゃんが術使いだったっけ。
「んで。何しに来たん? 長いから忘れた」
ずぅぅぅんて座り込む三助。
メンタルやられてるからストレスに弱い。
少なくともまだ僕と一回も目を合わせてないコイツ。何か呟いてるし。
「……………………ここで」
「ここで会ったが百年目?」
立ち上がって僕を指しながら右、左にステップ踏んでる。メンタルやられてるとテンションが不安定になるみたい。
コイツひょっとして……僕の勘が正しければ。つか、さっき正解した気もするけど。
復讐しに来たのかッ?
その時、三助が初めて僕をじぃぃて見た。
昔散々見たコトのある目。弱肉強食の世界に生きる野生のソレ。
「あー……ゴメン三助。僕はもう、そーゆーのいいから。今は働いてるし大切な人もいるの」
ヤツは一瞬「へ?」って感じになってフリーズ。
わかるわかる! 僕もたまになるからコレ!
しばらく様子を見守ってたんだけど。飽きたからお家へ帰るコトにした。
ベンチから下りて背を向ける。
次の瞬間。
懐かしいプレッシャーが僕を襲う!
三助が〝都会の生き方〟から解き放たれて野生を取り戻したんだ!
大きな口を開けて飛びかかってくるキツネ。
僕はベンチコートのポッケから取り出したソレをヤツの目の前に突き出す!
ピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュピュ……
山じゃ聞くコトのない大音量の電子音を食らって。三助は死んだ。違、失神した。
防犯ブザーはいつもリンに持たされてる。
僕はペタンしてたお耳をピンて戻すと。のびてる三助を引き摺って「うんしょ、うんしょ」公園の植え込みの中に隠してやった。
都会の真ん中でキツネが寝てたら、処理されちゃうからね。
「ふうう。……何か、いい年になりそ」
リンにもらったお年玉でポップコーン買って。
スキップしながらお家に帰った。
それではまた……




