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野生小動物のプライドと脳ミソ

土曜日の20時更新です……

 リンと僕が住んでるマンション。

 

 501号室。


 部屋は縦に長いのがひとつだけのユニットバス付きってヤツ。

 

 奥には狭いベランダがあってリンがたまにお洗濯する。その手前にちっちゃいテレビが一台。いつもゴロンて寝転がって見てる僕ら。

 

 夜の十時半。


 テレビの前に転がってる僕とリン。


 仰向けで顔だけテレビの方を向いてる僕。アニメ以外見ないから見てるフリしてます。寝る前のどーでもいい時間。


 リンはうつ伏せで両手の上に顎乗っけてテレビ見てる。女優さんみたいな顔。ピンクのモコモコ部屋着だ。


「あ……」

 

 オシッコ出る。

 

 僕、トイレに行こーとした。その起き上がるタイミングを狙い済ましたみたいに……

 

「歯ブラシ取って来てウサ」

 

 テレビ見ながらリンが言う。

  

 くりん、パタふ。

  

 僕はそのまま前回転受け身を取って、また仰向け。

 

 無言でテレビ見てるリン。天井をじーっと見つめる僕。しばらく硬直状態。

 

 少しずつ顔だけテレビの方へ傾けてみた。子役が不動産のCMで熱演してて何か腹立つ。「子供は家でカレーでも食っとけ!」って叫んだ心の中で。

 

 気持ちが整う。


 よし、リトライだ!


 今度は、そ~っと起き上がってみる。さっきの受け身で死角に移動した。リンには僕が見えてないハズ。

 

 そ~っと……そ~っと立ち上がる。

  

「歯ブラシ」

  

 力が抜けてトスッてその場に座り込む。

 

 耳がピーンてなって鼻もヒクヒク。そしたら自分でも知らない内に前足をパンパン、床をホリホリやってたんだ。

  

 僕は故郷の伊吹山に居た。

 

 ほんの数秒だけど。魂があの山に戻って野原を全力で駆け回ってた。 

 

 少し情緒が安定した僕は、自分が今置かれてる状況をちっちゃい脳ミソで整理してみる。一体何がどーなってんの?

 

 ……よくわかんなかった。

 

 まぁ、いいや。すっくと立ち上がって後ろ足を力強く一歩踏み出す。

  

「歯ブラシ」

  

 ダンッ!

  

 僕は後ろ足を床に叩きつけて足ダン始めた。

  

 ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン……。

 

 これだけ足ダンしてるのに。リンはずーっとテレビ見てる。

  

 僕にもうさぎの意地があるよ。足ダンを続けよう。リンが振り向いてくれるまで。

 

 例えこの後ろ足がぷくって腫れたとしてもねッ!

 

 それに……何だか楽しくなってきた。


 ダンダンするとテンション上がるし「とりあえずダンダンしとけば、いんじゃね?」て感じで何も考えなくって済むし。

 

「あふぅ?」

 

 僕はいきなり足ダンを止めた。

  

 しばらく立ち尽くす。


 立ち尽くす。


 それから無言でベランダに出て雑巾を取ってくると……床をフキフキした。

 

 ユニットバスで雑巾洗ってから、自分のお股もしっかりシャワー。バスマットで足裏こすこす。カゴにあるタオルでおチンチンも丁寧に拭く。

  

「歯ブラシ」

  

 部屋の方からリンの声が聞こえてくる。

 

 僕は洗面台に跳び乗ってピンクの歯ブラシを引っこ抜くと歯磨き粉、ちゃんとつけて持ってった。

  

 うつ伏せのまま右手だけ伸ばして受け取るリン。


 ポロリ。涙出た。


 モコモコウェアの背中にしがみつく。リンは仰向けになって泣きじゃくる僕を優しくモフりながら。

 

 歯を磨いた。

それではまた……

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