小動物の呟きとオタ活
土曜日の20時更新です…
スマホがない。
ウサはどこ行ったんだろ。……あ、ベランダにいる。夜肌寒いこの時期に何やってんのかな。
部屋からそっと覗く私。手摺の前に置いた丸椅子の上で、夜空を見上げ溜め息一つの白うさぎ。その両手にはスマホ。
「ハアア……お返事が来ない」
アレか。
最近初めたSNSの呟くヤツ。ウサが某アイドルグループの女の子を「フォローする」って言い出したんで。私はロム専用のアカウント持ってたから別アカを用意してあげた。
昨日、初めてそのアイドルの呟きに『返信』入れてたけど。多分その事で思い悩んでんのね。
「アイに届いてないのかなー。何でお返事来ないんだろー」
届いてるよ。他にもアイちゃんには数百件くらいのお返事が。あ……トコトコこっち来た。
「リン、僕どーしたらいいの?」
「ウサはどうしたいの?」
「……アイのお返事欲しい」
彼女は五十万のフォロワーを抱えるアイドルさん。無理ゲーだよねこれ。でもウサが一生懸命打ったんだ。ちっちゃい手で、一時間もかかって。
何とかしてあげたい。
早速ネットで調べてみる。アイドルからお返事を貰うには、まず本人からの『認知』が必要みたい。その為にはオタと推しメンの関係性をしっかりと現場で築く事、だって。
アイドルオタかー。ウサにも何か夢中になれるモノが一つあっていいかもだなー。
「ウサ、オタ活。頑張ってみる?」
「オタカツって何?」
「アイちゃんのオタクになって、応援するって事」
ウサが真っ直ぐな目をして力強く頷いた。
「メンドーだからいい」
うん。メ、メンドーって言ったか今。
「僕、お返事もらうコトしか興味ない」
言い切った。さっきまで「お返事欲しい……」とか言ってた口で。あ、言ってる事同じか。イヤ、違う違う。
「曲も聞きたくないし、ライブも行きたくないし、グッズとかもいらない!」
怒られるわ推しの方に。つか、アイちゃんに謝れとりあえず。SNSの承認要求満たす相手にトップアイドル選んじゃダメでしよ。せめて自称アイドルとかにしときなって。……これはこれで怒られるけども。
「でもねリン。僕、お返事は欲しいんだ!」
念の為頭を整理してみる。この子は一体何がしたいのか。アイドルとして一切興味ないけどお返事が欲しいと言ってる。合ってるよねこれで。
「……じゃ、リリイベ参加してサ。CDだけ購入して握手会で話とかしてもらえば?」
「お金、もったいないよリン!」
ですよね! お返事欲しいだけだもん。CD代すら出せないッスよね。もう自慢のお耳がヒコヒコだよ! ウサ、絶好調でーす………………
✳✳✳
次の日。朝、アイちゃんの「おはよう」呟きに自撮りの可愛い写真を添付したウサ。
「ちゃんと自分で考えたんだね。でもこーゆーの〝クソリプ〟って言うんだよ」
「クソリプ? クソリプ、クソリプーッ!」
妙なテンションだったのか、嬉しそうに走り回る小動物。自分でも小っ恥ずかしい事したって自覚があるらしい。あまりにうるさいんで外に出した。
しばらくしてスマホに通知アリ。見てみるとアイちゃんが『いいね』してくれてた。
さすがアイドル、と思った。
それではまた……




