地上波から消えた光景
土曜日の20時更新です…
スマホを真ん前に置いてペタンて。
座るうさぎの後ろ姿。いつもは寝転がって見てんのに今日はかぶり付き状態。
ウチでは動画配信でしか見れない番組がある時、ウサに私のスマホを独占させてあげてる。
その一つがこれ。格闘技の試合中継ね。
私は詳しくないからよくわかんないけど、ウサは総合とキックの試合しか見ない。今は生中継でキックの試合を一生懸命見てる。
ロム専の分際でSNSパトロールが趣味の私は手持ち無沙汰になって。隣で寝転がって音声だけ聞いてた。
『……選手の入場です!』
何かヒップホップ流れてきた。結構尺取るなぁ入場。ウサ、深いため息ついとる。
『……解説はタレントの◯◯さんでお送りします』
芸能人も解説すんだね。素人のクセに。
『あっと開始早々、両者お互いに行ったぞーッ!』
何か会場超盛り上がってる。ウチの子はノーリアクション。まぁ、いつもの事だけど。
『ここでいったん互いに距離を取ります。両者ケンカ四つ……おっとインロー』
「よし、インローッ!」
出たインロー。内股への蹴りだよね。ウサが技名叫んでる。
『あっと! 左アッパーで顎が上がったーッ』
『効きました、効きましたよ!』
会場大盛り上がり。片方がパンチで凄い攻撃してるらしい。全く反応しないウサ。
「……ナンミョーホーレンゲーキョ、ナンミョーホーレンゲーキョ…………我にインローを与えたまえええ」
小声でお経唱えてた。これもいつも通りの光景。
『何とか凌ぎきったか?』
『ちょっと攻め疲れで手が止まりましたね』
「インローッ! インローッ!」
ウサが激飛ばす。お互い疲れて距離取ってるらしい。
ここなんだよね? ウサ。
お願いだからインロー、出してくんないかな。疲れてるとこ悪いけどサ。地味な技かもだけどサ。
パンチでなくインローをウチの子にプリーズ!
『あっと、奥足へのインロー』
『お~。インローの打ち合いですね』
祈り、届いたね! もう立ち上がっちゃってるウサ。インロー祭りの始まりだッ。
「イ・ン・ロー! イ・ン・ロー! イ・ン・ロー! イ・ン・ロー!」
バッシィ!
「入ったアアアアアアアアアアアアッ」
ウサ絶叫。蹴られた選手がダウンしたらしい。
『あっと、ダウンか? ダウーン!』
放送席よりも早く、ウサが叫ぶ。
「金蹴り、決まったーッ!」
『お、これは……下腹部押さえてますね。ローブローですか』
『インローって、少し動いちゃうと金的当たる場合がありますからね~』
ウサはこれを。
アクシデントによるローブローで試合が中断するのを見るのが。
大、大、大好物なのね!
特に生放送のビッグマッチでこれがあると、もうテンションアゲアゲ。
会場全体が「金玉待ち」になってる雰囲気が大好きなんだって。
「初めっから金玉蹴り合えばいいのに! ね、リン」
怖いわ、そんな競技。わかんないから私に振らないでとシカト。
「リンは金玉ないの?」
無いわ。つか、毎回聞いて来るねこの質問。
「僕あるよ。ホラ!」
知ってる。結構立派なのある。そんで見せびらかしてくる。
「見てよリン!」とか言いながら、かなりしつこい。仕方ないから指でちょんて突っついてやる。
「キャッキャッ」
ここまでが、金蹴りのあった時の私達のルーティン。満足したご様子のうさぎ。
スマホをチラと見ると。
蹴られた選手がコーナーで椅子に座って色んな事に耐えていた。脂汗を流して。
〝キュン〟てなる、いつも。
それではまた……




