うさぎとナイフショーと私
土曜日の20時更新です…
「絶対ムリ」って最初は思った。
電車しばらく乗ってないし人の集まる所だしって。
ウサがまた、どっかで情報を仕入れてきて。今回はGZでやってるナイフショーに連れてけ、ってゴネるゴネる。
ナイフショーって何? 最初サーカスかと思った。
スマホで調べたらどうやらナイフの即売会の事らしくて。いや、ムリ! 怖いよそんなとこ行くの。
でもウサは聞かない。
この子護身用のミニナイフ持ってたくらいのマニアらしくて「ナイフ、ラブ!」とか言って颯爽と出て行こうとするから。仕方なく付き合う事にした……。
最寄りのM駅からはGZ駅まで地下鉄一本で行ける。
私は久々にGZに出るんで少し頑張ってお洒落してきた。ブルーのニットカーディガンに黒のロングスカートとブーツ。
最初はしゃいでたウサも直ぐに地下鉄の代わり映えしない風景に飽きたみたい。大人しく座っててくれた。
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「こんな可愛いお客さんは初めてだな」
カスタムナイフメイカーのおじいさんが笑う。白髭メガネでスタジオ◯◯◯の◯◯監督に激似!
ナイフショーはデカいビルのホールで開催されてる。机が何列もダーッて並べてあって、コミケの即売会て感じ。コミケ行った事ないけど。
各ブースにナイフ作家さんがナイフを並べてて、その前をお客さんが行ったり来たり。
私はウサの手をしっかり握ってドコ行けばいいかわかんなくてウロウロしてたんだけど。監督が「おいでおいで」してくれたから、そっちへ舵切り。
「最近はショーにも女性がチラホラ来てくれるようになったけど。こんな若いお嬢さんが、その、獲物……あ、イヤ。じゃなくて、え~……ペット? アハ、ペット連れで来るのはさすがに珍しいかな」
監督のうさぎを見る視線が気になるけど。ウサは机の上に乗っかってナイフに夢中。
「コレ、ピッカピカでカッコいい!」
「セミスキナーだね。獲物……鹿とか猪の皮剥ぎ専用のハンターナイフ。ブレードはミラー仕上げでね。鹿さん猪さんの血肉や脂が付きにくくなってるんだよ」
「じゃコレください!」
ウサがいきなり言うもんだから。私は慌てて値札をチェック。
……ウソだろー。ゼロひと桁多いよー。五千円かと思ってたら五万円でしたー。他のナイフも見てみよー。どれもそんなんですけどー。十万越えもザラなんですけどー。
「アハ。カスタムナイフはね、高級鋼材と高級ハンドル材を使ってメイカーが全て手作りする。最高級のハンドメイド商品なんだよ」
「コレ、何か彫ってある!」
「サブヒルトにエングレーブ(彫金)施してあるね。ファイターナイフだからコレクション用だよ」
「じゃコレもください!」
値札。三十万。誰かこの子を止めて! 八百屋さんで大根と人参買うテンションで高級ナイフをセレクト中でーす!
「有難いんだけど。ファイターはともかく、セミスキはハンターが使うモンであってサ。獲物が持っててもね」
獲物言っちゃってるよじいさん。太客現れてテンションおかしくなってんな。予算、五千円だからね。言ってないけど。
「じゃ最初のやめてコレ!」
「お、フィッシングナイフだね。うん、これならうさぎが持っててもおかしくないよ」
フィッシングナイフ三万円。安くてホッとしてる自分に驚く。ティファニーのピアス買えるわ。
「それって……鹿の角?」
「よいしょっと……これだね。スタッグと言ってハンドル材だよ。これは五千円でいいよ」
とうとう材料売り始めたよ、このナイフ屋。まんま鹿の角。ウサ、テンションMAX。
「うわあああ! 鹿角かっけーッ、鹿さんの……角。すごおおおおおお!」
結局、鹿角買って大満足してくれた。
観賞用だって。
それではまた……




