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くたばれタナトス!

土曜日の20時更新です…

 山麓に広がる懐かしい森に佇んでた。


 ゴールデンブラウンの美しき獣。キツネの三助IN伊吹山。本日は快晴、義手は無し。


「都会におるより涼しいて気持ちええわぁ」


 動物達の鳴き声や木の間すり抜けて来る風の音に耳を澄ますワシ。


「ヨシャ。誰もおらんな」 


 一息ついてから泣き始めた。


 あんまし悲し過ぎたんで嗚咽出る。えッ、えふ、えふぅ……て。


 森の斜面に掘られた巣穴の長さは数十メートル。そこにワシらの一族は住んでんねんけど。ついさっきの出来事を思い出してまた泣きが入る。


 婆様が死にかけとった。


『ふえええ……………………どちらさん?』


 おまけにボケとった。


 家族に聞いたらもう長くはないて。ワシが都会で暮らしてる間に婆様が死にかけとる。


 一通り泣いてから頭ん中を整理した。


『なんか美味いモン食べたいわパパ……』


 どーやらワシを爺様と勘違いしとるらしい。十年以上前に亡くなってて会ったコトもないんやけどワシ。


『こう……血の滴っとる新鮮な獲物がええわぁ』


 ガキんちょの頃、婆様から狩りを教わった。


 バリバリの肉食系。ワシらヴィーガンに対するカーニボアってヤツな。ヤバ、鳥肌立った。


 家族の連中が『寝たきりの婆様最後の願い!』とか『パパにお願い!』て言うてくる。イヤ、誰がパパやねん。


『アレがええ……ホラ、あの耳の長いヤツ。美味しいやろふえええ』


 うさぎかーッ……………………


 よりによってうさぎ……おぅぷッ、一口ゲロ出た。


 ちょっとパニクるワシ。とりあえずクルクル回ってみる。クルクルクルクルクルクルクルクル。


 ゲポ吐いた。オロロロロロロロッて。


 小麦アレルギーからグルテンフリーになって、そっから意識高い系ヴィーガンのワシ。狩りでうさぎはさすがにキツい。


 ウサの顔がチラつく。


 かつての宿敵で同郷の友。友やて、ハ、ハズぅ!


 せめて鴨とかキジの卵にしてくれたら……何でうさぎやねん。もう、ウサの顔まともに見れんワ!


 それでも、な。


 婆様の最後の願い。


 どんな犠牲を払ってでも叶えてやりたい。


 ワシは地面に突っ伏すとゴロゴロ転がり始めた。思い出せ……土の香りと大地の感触。ワックスで整えた毛並みが跡形も無い。


 鼻を木にコスコス。色んな情報が飛び込んで来て頭クラクラする。あ、カモシカのよっちゃん便秘気味。


 感覚が鋭なって神経がピリついてキタ…………


 細胞の一個一個に電気が走って回路に染み渡ってく感じや。


 舌にべっとりした血の味が蘇る。


 けど吐き気は……無い!


 戻って来ましたワシ。伊吹山に真キツネの三助リターンズですわー!


 グワァバーッて大口を開けてみせる。


「したらコレ食うてみい」


 口開けたまんま振り返るワシ。


 婆様がカップ持って立っとった。


「ハ、ハ、ハフゥ? ば、婆様ッ?」


 カップ麺のきつねうどん差し出して来よる……死にかけの寝たきりのボケボケの肉食ババアやなかったっけコイツゥゥ?


「誰がコイツじゃボケ」


 婆様は読心術も使えます。


「イヤ、ババア、ワシ、グルテンフリー……」


「ええから食うてみい三助!」


 震える左の前足で一本摘み上げてチュルン。


「うッ……美味ァァァァァァァァァァァァーッ!」


 ズルズル食った前足で。


 あっちゅー間に汁まで完食や!


 もう死んでもええと思った。アレルギー症状出るのドキドキして待ってたんやけど…………出んかった。


「山神様がな、お前が都会の病気になったちゅーて。今回のしなりおとでいれくしよんを担当してくださったんじゃ」


 あの白イノシシ?


 ヤマトタケルを泣かした伝説のイカれ神・作の芝居やったんコレ? このババアと愉快な家族達出演でショック療法カマされたってコト?


「はああああああああッ…………良かったーッ!」


「三助、あれるぎー治って良かっ……」


 ワシの心を読んだ婆様。


 髭ボーボーの顔がクシャーってなっとるがな。


 照れ隠しに故郷の森でキャンキャン吠えるゴールデンブラウンの野獣。


 くたばらんでホンマ良かった。

それではまた…

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