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英國犬の心理的リアクタンス

土曜日の20時更新です…

「お兄さんカッコいっすネ〜! ウチのモデルになりませんカ?」


 夕方の商店街を散歩中にね。友人のウサくんを見掛けた。


 縮れ毛の小型犬に話しかけられてる……ん? シェリーじゃないかアレ。ウチの犬カフェをクビになったイギリスの爆弾娘。


「おーい、ウサくーん! 久しぶりだねシェリー」


「……コレはコレは。脳筋パイセンじゃないすカ」


 丸いサングラスかけたヨークシャーテリア。こんな感じだったっけ彼女? 今、脳筋て言った?


「ロッキーあのね! 僕、師匠に褒められた!」


 うん、確かに。


 何でだかウサくんはシェリーのコト師匠って呼ぶ。でもキャッチだねコレ。うさぎさん相手に何やってるんだこの娘は。


「美容とかにキョーミあル? ウチの店でお肌の無料診断キャンペーンやってるんデ。今からどーすカ?」


 エステかぁ。ウサくんに声かける位カツカツになってるようだが。


「行きます!」


「行きますうう? ちょっ……待ちたまえウサくん! お肌になんか一ミリの興味もないでしょ絶対」


「パイセ〜ン、邪魔しないでもらっていいかナ? アタシこの素敵なお兄さんに話しかけてん丿!」


 嬉しそうだウサくん。


 毎日一緒に遊んでるのに盲点だった……彼は褒め言葉に弱いッ!


「早く行こ師匠! 僕モデルでも何でもやる!」


「待ってウサくん。このままだと高額の契約とかさせられるかもだッ」


「人聞きの悪いコト言うの止めてもらっていいすカ? 磨けば光る宝石の原石が今、目の前にいんだヨ!」


 ウサくんが頬を赤らめてるーッ!


 金蹴りが入ってタマタマが上にあがった時でもこんな顔は見せないのに。どれだけ新しいウサくんを引き出す気なんだ、この縮れっ毛はァァァッ!


「じゃねロッキー。新しいステージが僕を待ってる」


「日常を忘れさせる特別な時間をあなた二ィィィ!」


 最早キャッチコピー叫んでるシェリー。


 仕方ない……


 アレをやるか。


「へい、シェリー。ウサくんを騙しちゃダメじゃないか!」


「は? 文句あんのパイセン」


 しまった、間違え。


「えーと、シェリー。ウサくんを騙さないとダメじゃないか!」


「…………へぺけッ?」


 シェリーはやっちゃダメなコトやる系の犬。


 所謂心理的リアクタンスってヤツの酷いバージョンらしい。


 今『ウサくん騙さないとダメ(騙す)をやっちゃダメ(騙さない)』の指令を出してみた。


 あ、何か震えて……


 歯食い縛って必死に耐えてる。やっちゃダメなコトやりたい自分と戦ってるんだね。頑張れ、ホラやっちゃダメやっちゃダメ…………


「み、みみみみみみみみ店にッ……行こっかウサ!」


 耐えたァァァァァァァァァーッ!


 成長してるよ彼女。うん、感動した! サングラスずれちゃってるのが激闘を物語ってて、良き!


 でもコレでジ・エンド。


「ウサくんを騙さないとダメ。シェリー」


「ウサを騙さないアタシ」


 はい、インプット完了。


 あ、プルプルして……悔しいねー、頑張ったけど悔しいねシェリー。泣いてる? 泣いちゃったのかなイギリス娘。


 ウサくんがシェリーの前に仁王立ちだ。止め刺す気かな。


「早くお店行こ師匠。僕を宝石にして下さい!」


 ウサくーん? 今のやり取り見てたよねー?


 騙されてますよアナターッ!


「ごめんウサ…………アタシもう、心折れちゃったからムリでス……」


「何言ってんの師匠。僕もっと褒められたいんだから。お店行かないとダメ」


「えッ……? 行かなイ」


「行かないとダメでしょーが!」


「イヤ、だからその……行かなイ」


「この縮れ毛ヤロー! 行かないとダメだろー!」


「もう、行かなイってばァァァァァァァァァッ」


 泣きながら逃げてくヨークシャーテリア。それを無言で見送るウサくんと私。


「……眉毛がカッコいいと思うよウサくん」


 少しはにかんだ笑顔に西日が差す。


 素敵だと思った。

それではまた…

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