ボーイズ・オン・ザ・ラン!
土曜日の20時更新です…
「ヒマだから……ブタの赤ちゃんいじりに行こ、ロッキー!」
ウサくんの提案を呑むコトにした。だって私達ヒマだったから。
ブタの赤ちゃん。色々と話には聞いていてね。
理由は不明だが、ウサくんをぶっコロに来たのにゲポ吐いて動物病院に連れて行かれたって。その後行方をくらましたらしいけど。
ウサくんが病院から住所を聞き出していたんだ。一度食い付いた獲物は離さない。そーゆーうさぎさ彼は。
今Y市の公園に来ている。港が見えるトコ。
駅からスマホのナビで来たんだけどね。公園が目に入った途端ウサくんが「ヒャッホー!」て突っ込んでったまま。辺りを走り回ってて全然帰って来ない。
仕方ないからルイボスティー味プロテインを頂きながらバラ園のベンチでひと休みしてるところさ。
Y市はK市と違って洒落た雰囲気のある街だね。犬カフェのナンバーワンとして洗練された私にもしっくりと来るし。
気分が乗ったので得意のダブルバイセップス・フロントポーズを決めてみる。
「あなたはトイプーなのかしら。それともゴリラ?」
色鮮やかに咲き誇るバラのゲート。
その前に置かれた籠からちょこんと顔を出しているポメラニアンのレディからお声がかかった。
「テディベアカットのゴリラを見たのは初めてかな。お嬢さん」
気品漂う白い毛並みに真紅のリボンが鮮烈な印象の彼女。人間達が撮影会をしているらしい。
「フフ面白い方ね。前面の筋肉に自信がおあり?」
「お望みとあらば」
私はバックのラットスプレッドで自慢の背中をお見舞いする。
「見事だわ。脳みそまで筋肉じゃなければいいのだけれど」
「お言葉だがお嬢さん。脳筋は神の領域でね。私なんかが到達出来るシロモノじゃないんだ。と言うワケでお名前を伺っても? 私はトイプーのロッキー」
撮影会に参加している人達がザワつき始めた。どうやらインフルエンサーとしての私をご存知らしい。
「わたくしはポメのジュエルよ有名犬さん。良かったらご一緒に写真、如何かしら」
「喜んで」
彼女に向かって歩を進める私。
「オーマイガッ……」
近づくにつれ、そのオーラに圧倒され始めた。ジュエルの名に相応しい宝石のようなキラめく瞳。
既に落ちていたんだ。
バラより美しい白い花に。
「どうだろうジュエル。私の妻になってくれないか」
「驚いた。まだお互いの名前しか知らないのに?」
籠の前で跪くと一斉にシャッターが切られる。
パシャッ、パシャシャシャシャシャ……
「ジュエル」
「ブタの赤ちゃんの鼻にコレ突っ込んでゲポ吐かせよロッキー!」
振り向くといつの間にかウサくんがバクチク持って立っていた。
こちらもまたキラめいてる瞳が。
「鼻の穴にバクチクを?」
「うん! アイツ絶対ゲポ吐く!」
「ゲポ……」
私は彼女の輝く瞳を見つめながら囁く。
「すまないジュエル」
「フフいいわ。あなたはまだ冒険がしたいのね」
私達はバクチクを握り締めて走り出した。ブタの赤ちゃんの元へ。
尽きるコトないゲポへの熱き想い。
それではまた…




