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リンとウサとヨボヨボと

土曜日の20時更新です……

 電子レンジ。


 フライパンとかお鍋とか。人生で関わる事ないヒューマンにとって、これさえあればなんとか自立生活が送れるという魔法の箱。


 ワンルームマンションの冷蔵庫上に設置されたそれを半眼でじっ……と見つめる私。

 

「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前!」

 

 人類が発明した最も偉大な電化製品にシュシュッと刀印で九字を切ってみせた。

 

 別に。意味は全然ない。

  

「何? 今の何! ねぇ、リンてば!」

  

 白うさぎは初めて見るモノに興味丸出しで食い付いて来てくれるから。それっぽい事を色々やる。

 

「散歩行こっか。ウサ」

 

 季節の変わり目は体調悪い。だから毎日出来るだけ外出する。ヒノヒカリを浴びる事。そして何よりウサが散歩したがるから。

 

「散歩? やったぁ! ……ねぇ、リン。さっきのシュシュッてヤツは?」

 

「今日はアイツ大丈夫かなー? ウサ」

 

「アイツ! アイツ元気かなリン。早く散歩行こ!」

 

 目キラキラ、鼻ヒクヒクさせて飛び跳ねるうさぎと手を繋いでのお散歩。


 私は普段あまり着ないヒラヒラのフレアスカートで軽やかな感じ。ウサは道端のカラスとメンチの切り合いしたりして、とても楽しそう。

 

 しばらく住宅街を歩くと年季の入った木造平屋建ての一軒家が現れた。

 

「着いたーッ!」

 

 我慢出来ずに走り出すウサ。その家には玄関前にちょっとしたコンクリ床のスペースがあって。

 

 そこにアイツがいた。

 

 年老いた一匹の柴犬。

 

 その顔は重力に逆らう事なく目も開いてんのかわかんない程にたるみ切ってる。柴犬、こんなだっけ? て位の。

 

 ウサはここを通る時、いつもドキドキするらしい。だってこの老犬。じぃ~っと身動ぎもせず立ち尽くしてるか、横になったまま動かないか。このツーポーズ以外に見た事ないんだもん。 

 

「立ってるよ! リン。今日は立ってる!」

 

「立ってたねー」

 

 四つ足で少し項垂れて立ってる。いつも方向はまちまちだけど今日は玄関を向いてそのままフリーズ。一ミリも動かない。

  

 彫像みたいな雰囲気が不安らしくて、ウサはいろんな角度から覗き込んだりしてる。

 

「コレ、息してるかなー?」

 

「してるんじゃない?」

 

「コレ、立ったまま……アレじゃないかな」


「アレって?」


 何かモジモジするウサ。

 

「……だとしたら?」

 

「カッコいいと思う!」

 

 鼻ヒクヒクさせて得意気なウサ。どうやら野生動物的にテンション上がる案件らしい。家に帰るといつも「柴犬さんマジ、リスペクト!」ってしつこく訴えて来るし。

 

 次の日。

 

 ウサがいつものように一軒家の玄関前にダッシュしてく。

 

「あ!」

 

 小さく声を上げる。老犬がいない。

 

 ついにこの日がやって来た。

 

 私は子供の頃、大好きだったおじいちゃんが元気かどうか不安で毎晩部屋を覗いてた事を思い出す。

 

 いつまでも。


 胸を撫で下ろし続ける事は出来ないんだ。

 

 来る時は来る。

  

 ウサは相当ショックだったみたい。私のスカートにしがみついて半ベソかいてる。

 

「…………ん?」

 

 その頭を優しく撫でてから、玄関前のコンクリ床を指差す私。

 

「ウサ、あれ見てみ」

  

 そこにはチョークで『ただいま公園を散歩中』と書いてあった。

  

「大丈夫ッ、アイツ大丈夫だッ!」

  

 テンション上がって辺りを駆け回るウサ。

  

 どうやらこの老いぼれ犬は、ここを通る色んな人達をハラハラさせてるらしい。

  

 散歩。出来んのかよ。

 

 私は心の中で呟いた。

それではまた……

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