冒険者は死んだ
土曜日の20時更新です…
「野良チワワとは珍しいなぁ。大丈夫かい? おチビちゃん」
私が小刻みに震えるその子を見つけたのは、小春日和の堤防でだった。
「へっちゃらだね。えーと……茶色いゴリラさん? ちょいと日向ぼっこ、してただけ」
黒白のロングコートチワワ。毛が伸びっぱでかなり汚れてる。堤防の草むらに横たわってたから最初、死骸かと思っちゃったよ。
「ゴリラじゃなくてトイプードルのロッキー。駅前の犬カフェでナンバーワンをやらせてもらっている」
「勇者パーティのペット担当三郎。仲間の戦士たもつ(ゴールデン)と魔法使いのペコ(プードル)それから勇者ポン太(柴犬)は魔王軍に連れ去られた 」
あぁぁぁー! ハイハイ。
この子、ウサくんが前言ってた元殿様だ。
確か自転車のカゴに乗ったままチャリパクされて。その後色々ありーのでこの仕上がりだって。
「仲間が連れ去られたのかい?」
「うん。馬車に乗った魔王軍が棒の先に輪っかの付いた魔道具で皆を動けなくして連れてった」
保健所の連中かぁ〜。
この子のお仲間だと野良判定されるだろう。だって汚いもの。
「オレはマナが切れたから仕方なく逃げた。回復したら皆を助けに行かなくちゃ。クソッ……魔王軍めぇぇ」
保健所を襲うつもりだねこの子。
他の三匹はともかく職業のペットて何かな。このスキルを駆使して戦うのなら勝ち目ないと思うけど。
「とにかく。いつまでもここに寝っ転がってると魔王軍より恐ろしい腹ペコ大熊猫がやって来て。パクって食べられてしまうよ」
「ま、魔獣が出るのかァァァッ?」
「この辺はヤツの縄張りでね。いつもザリガニを貪り食ってるんだ。早く移動した方がいい」
私はとりあえず彼をコンビニに連れてってコッペパンを食べさせた。
「……ここ、知ってる」
もぐもぐキョロキョロするチワワくん。
「オレが転生したトコだ」
ウサくんが言ってたチャリパクで誘拐されたコンビニってここか。
「女神ササミーに異世界〝マゼゴハン〟へ送られて。スキル〝部屋で飼える〟のせいで山賊に育てられたりとかしたけど。仲間達と出会ってオレ、変われたんだ」
前半の妄想パートはともかく。彼にとってお友達が大切な存在だったのはわかる。
「腹拵えが済んだら行くよオレ。魔王城へ!」
やっぱ行くのか。
ソッコー捕獲されますこの子。しかも素手で。
職員さん驚くと思う。ちっこいのが丸腰で突っ込んで来たら、思わず抱き締めちゃうんじゃないかな。
あ、それがスキルの〝部屋で飼える〟か。ヤバ。
でも、それじゃあ仲間達を助けるコトは出来ない……
「えと、三郎くんだっけ。君が勇敢なのはわかる。さすが勇者パーティの一員だと思う」
「マゼゴハンじゃ英雄です」
「だね……だけどよく聞いて。ここは異世界じゃない」
「うん。戻ってきたし」
「実は私も保護犬だった。だからあそこのコトはよく知ってる……保健所ってちゃんとした手続きを取らないと生きて出れない…………死の監獄なんだッ!」
突然、三郎くんがガクガク震え出す。
かと思うと、大きなお目々に涙が一杯溢れてきて……泣き出してしまった。
「あぅ! ゴメンゴメン。怖かったねー、言い方。言い方間違えた。ほら、ダブルバイセップス・フロント」
上腕二頭筋をアピールする私。
全然泣き止まない三郎くん。抱っこしてヨシヨシしてあげた。
「ダイジョーブ! ね? 然るべき手続き、私に任せてくれないかな」
私は犬カフェに戻るとオーナーに企画書を提出。
勇者パーティの三匹を保護してもらい、そのキャラでキャストとして働いてもらうコトにしたんだ。
お陰様で一部のお客様にウケてます。
彼らもそれなりに今を生きている。
冒険者はもう居ないけれど。
それではまた…




