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命燃ゆる

土曜日の20時更新です…

 禁断症状が出てます。


 クリスマスパーティーにお呼ばれした時が最後だったから。もう一カ月以上、リンさんに会えてない。


 元グループホーム職員の里見洋介。漫画家です。


 カムバックしてから週連載も軌道に乗って仕事の方は順調なんですけど……グルホ辞めてからリンさんと会えたのはあのパーティーだけ。


 考えてみればウサ経由でしか彼女とコンタクト取れないんですよねボク。


 なかなか時間無くて、あの白うさぎに連絡出来てなかったんで。結果、リンさんとも疎遠になっちゃってるっていう。


 今、ボクの頭ん中はネームとリンさんでグッチャグチャです。


 もうね、全てが最高なんスよ彼女!


 立ち姿も形のいい頭頂部も華奢な手も。少し鼻にかかった声も小柄なのに大股で歩くとこも好き。緑のジャージすら愛しくって堪んない。


 そして何と言っても輝く宝石のような瞳……


 あーッ、リンさんに会いたい会いたい会いたい会いたい会いたいよォォォォォォォォ!


 ネームなんかやってられっかボケーッ!


 ボクは仕事部屋兼住居のマンションから飛び出してフリース上下姿で商店街を徘徊します。うさぎ、うさぎ……いません。じゃ、次公園…………いねーじゃん。


 告る?


 うん、今日告りますボク。


 ウサめっけてケリつけてやりますよ。この片思いに。


「アレー? 漫画家の先生がいるよロッキー」


「ダメだよウサくん! あの鬼気迫る形相……きっと追い詰められてるんだ締め切りに。関わっちゃいけない」


「ウサァァァァァァァァァァァァッ!」


 白うさぎにしがみつく頭ボサボサの三十男。


「うわ、何かほんのり死臭がする里見ィ!」


 ほんの三日程寝てないだけ。もちろん風呂、入ってないよ!


「落ち着いてウサくん。それが漫画家と言うモノだ」


 脳筋犬ナイスフォロー。でも若干引いてますウサが。この状況でリンさんに会わせてもらうのは無理ゲー。


 普段なら諦めるとこですが。


 軽く生命の危機に陥っているボクは踏ん張ります。今日こそリンさんとやるんだ! あ、違。告るんだ!


「ウサッ! …………ああ明けましておめでと」


「もう二月だけど? ちゃんと社会生活出来てんの里見ィ」


「ただひたすら原稿を描く為のマシンと化す。今の彼に人間だった頃の記憶はないんだと思う」


 何言ってんだこのバカ犬。ウサがジッとボクの方を見てきます。


「了解ですロッキー。でもコイツ、僕のコト覚えてたんだけど」


「うん。たまたま、じゃないかな」


 取り込まれないでぇぇぇぇぇぇッ! ボクは弁明しようと口を開くけど……言葉が出てきません。


 担当との打ち合わせは殆んどメール。アシともデータのやり取りしかやんない作家の仕事場はいつも一人ぼっち。気付いたら長い間、誰とも話してないです。


「リ、リ、リ、リン……」


 絞り出す。愛しい人の名を。


「ん? 今、リンって言わなかった里見ィ」


「ケータイの着信音だね。編集さんからの原稿催促の電話がトラウマになっているらしい」


 あるけどォォォォ! そーゆーのも。けど、これ違うからァァァッ!


「多分週連載のストレスに耐え切れなくって逃げて来たんだと思う。それでも友人として、我々に出来るコトって何だろう? ウサくん」


 え、ロッキーお前……


「わかんない!」


「だね。答えは知らんぷりしてあげるコト」


「知らんぷり!」


 シカトかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!


 この茶色いゴリラ、敵認定していいスか?


「だって里見さんは命を削って戦場に立っているのだから。彼が戦いを終えるその時まで。黙って見守ってやろーじゃないか」


「うん、何となくわかった!」


 それから小動物コンビはこちらを無視してバクチク遊びを始めました。


 しばらくそれを眺めてから仕事場に戻るボク。


 頭ん中でネームは組み上がってます。


 さぁ、戦闘を再開しよう。

それではまた…

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