ワニワニパニパニパニーック!
土曜日の20時更新です…
ワニがおる。
商店街のド真ん中。二メートルはあるんちゃうか? むっちゃデカいのがドーンて感じで。
「グルルル私のご飯はどこかいな犬くん……」
今日の義手。風見鶏をクリクリ回しながらベストアンサーを選択するワシ。ヤバそーな相手やからな、初手間違えたら命に関わるかもやし。
「犬ちゃうわキツネやで。腹減ってんのかアンタ」
「それはすまないわな犬くん…………で、ご飯は?」
見た目でわかりにくいけどこのワニ、年寄りらしい。しかもボケとる。ワシは後退りして距離を取った。
「アンタのご飯ここにはないで」
「そうか……それは困ったわなグルル」
昼間の商店街やのに人がおらん。てか、皆隠れてる。そらそうや。さっきこの爺さんが通行人襲っちゃったからな。
怪我人は出んかったけどもう直ポリさんが来る多分。
「……で。ウサは何しとんねんそこで」
腹ペコ認知症ワニの頭の上に黒耳白うさぎがおる。
「取り抑えた三助」
「イヤ絶対〝ワニの頭に座ってみた!〟やろチョコンて感じで。は? みたいな顔やめろ」
「恐竜みたいでカッコいい」
腹ペコやのに頭の上のご馳走に気付かへんのかこのポンコツ。
「爺さんどっから来たん?」
「ご飯はまだかいな犬くん」
ご飯と犬しか言わんこの爬虫類。
ウサが跨いだ後ろ足でワニのこめかみ辺りをパカパカ蹴っとる。お馬さんとちゃうんやからお前……シャカシャカシャカシャカシャカ!
ワニが商店街のタイルの上忙しなく歩き始めたッ!
「ちょ、どこ行くねんウサ」
「この恐竜。僕の自家用車にします」
「イヤ、ワニやから。しかも人襲ってるしコイツ……だからどこ行くんやてコラ」
「ウチのマンションの駐車場」
「リンに怒られろ」
え〜ッて顔しとるウサ。言っとくけどその車降りた途端運転手から生き餌にジョブチェンジやで。
「じゃ、とりあえず燃料入れにカラス山行きます」
カラス食わす気ィ? 怖ッ、小動物発想が怖ッ!
器用に商店街の路地抜けてシャカシャカ進むワニ自動車。つか、ホンマにカラス山向かっとるでコイツら。
ウゥゥゥゥゥゥ〜ウゥゥゥゥ…………
商店街の方にパト来たな。
「チッ、ポリ公め」
舌打ちしてスピード上げるウサ。ワニって結構逃げ足速いんや……
警察の人ォォ、早よコイツら捕まえて下さーい!
このままやと住宅街でカラスの踊り食い始まってしまうでー!
通行人も街中疾走するワニに一瞬ビビるけども。頭にうさぎ乗っけてるから何となくメルヘンチックな感じでスルー。
ウゥゥゥ〜……
後ろの方からサイレン音が近付いてキター。
「ウサ、パトに見つかったから止まれ」
「僕の恐竜がいればポリ公なんてイチコロさ!」
「リンに怒られろ」
え〜ッて顔しとるウサ。うん、小動物に無双アイテム持たせるとこんな感じ。
そん時ね。
白うさぎの目がキラッて光った。前方には橋、つまり川が流れてる。
「いっけぇぇぇぇ! ワニ吉ィィィッ(ウサ命名)」
橋の欄干から愛車を乗り捨てるウサ。五メートルの高さから落下してくワニ吉。
「……ご飯まだかいなぁぁぁぁぁぁ…………」
ザッパァァァーン!
橋の上からワシとウサが見守る中、背中だけ水面から出したまんまスイスイと泳ぎ出すワニ吉。結構浅い川やったのに丈夫なガタイすわ。
「逃げて逃げて逃げまくって、自由を掴むんだワニ吉ーッ!」
ウサが遠い目しながら叫んでます。さっきまで自家用車にするとか言うてたクセにね。
パトがすぐ側まで迫って来よった。
『……ハイ、そこのうさぎと犬。止まりなさーい』
「犬ちゃうし」
「あ、あー、あー」
前足で両耳ペタンて塞ぐウサ。聞こえてませんアピで通すつもり?
ふと、義手の風見鶏に目が行くワシ。
風が吹いてんのかクリンクリン回っとった。
「……よっしゃ、逃げよかウサ!」
久々にウサと全力の賭けっこ勝負。やってみるコトにしたんや。
自由はこの前足の中に。
それではまた…




