ウサVSうさ耳協会〜ザ・ビギニング〜
土曜日の20時更新です…
区民センターの二階にある会議室。
横長の狭い部屋の中央にテーブルが置いてあるだけの部屋なんだが。左手の窓から差し込む柔らかい光が意外と心地良い。
下手側にウサくんと私、上手側に十数匹のうさぎ達がオン・ザ・テーブル。誰もイスなんか使わないね。
彼らのセンターに鎮座ましますデカ黒うさぎ。
お付きの細っこい灰色うさぎに何やら耳打ちしてる。
「支部長はそのミニゴリラは何だと言ってるでけちょ」
細っこいのがスポークスマンてコトか。映画とかでこすりまくってる設定だね。ボス感出す為のヤツ。
「ひょっとして私のコトかな? トイプードルのロッキー、ウサくんの友人です」
ウサくんの目から光が消えかけていた。
ここに呼び出しくらってまだ一分程なのに……お昼寝モードに突入してる!
つい、さっきまで。ウサくんと公園で泥だんご作りに興じていたんだ。そこへ彼らがワラワラやって来てこう言った。
「オラ達は全国うさ耳協会のK市Nブロック支部のメンバーでけちょ」
「け、けちょ?」
ウサくんは灰色うさぎの語尾にだけ食い付いた。好物だから仕方ない。
「ウチの支部長がウサさんに大事なお話があるんで来て欲しいんだけちょ」
「けちょーッ!」
ややこしい内容だと思ったから私も付き添うコトにしたよ。実は犬の世界にもこういった組織はあってね。大抵は人間不介入の秘密結社的な場合が多い。
「……支部長がワン公の同席オッケーだって。それじゃウサさん、いくつか質問するんで答えてね。けちょ?」
けちょの新しい言い回しにほんの少し反応するウサくん。口、ヨダレ出てる。
「伊吹山出身。須藤リンに飼われてて月〜金の午前中十分間『ほっぺた』でクッキー作り。土曜日に『おだんご』でセラピーやってる。けちょ?」
「けちょ」
ちゃんと答えれたね。エラいぞ!
「世界征服を目論む動物結社『ビスケット会』とつるんだり、山の神様とケンカして街を滅ぼしかけたり、地球侵略を狙う宇宙人を追い返したりしてるけちょ?」
「忘れた」
ウサくんは基本三日前のコト覚えられないスペックです。あと世界征服と地球侵略の件、私は初耳かな。
「オラ達全国うさ耳協会は人間社会におけるうさぎの立ち位置にデリケートな団体でけちょ」
「立ち位置って何?」
「え、そこ? えとポジション的な……けちょ」
「ポジション的にデリ何とかって何?」
「質問多ッ! コイツ質問多いでけちょーッ!」
灰色がパニクって黒に耳打ちしてるね。ウサくん相手に組織の活動目的を伝える不毛さに気付いたようだ。
「狼狽えちゃった……えと、ウサさんを危険小動物と認定、その行動を監視するコトになったから。協会に入会してもらいたいって支部長が言ってるでけちょ」
「皆ペットショップ出身なの?」
「え? え? あ、うん。都会のうさぎは普通そーだけちょ……」
ウサくんが後ろのドアと私をチラ見した。
「じゃあ今から追いかけっこしよ! 僕を捕まえるコトが出来たら何でも言うコト聞いたげる」
「は? イヤ、けちょ」
「よーいドン!」
マッスルアタックでドアを吹き飛ばすとトップスピードで駆け出す私とウサくん。
あっと言う間に二階の会議室から正面玄関へ。
「アレェェェ、まだ追って来ないよロッキー。少しここで待っといてやるかー」
「連中体ブヨブヨだったし脚も細々だった。追う気もないんじゃないかなウサくん」
少し玄関で相撲を取ってから公園に戻った私達。
夢中でまた泥だんごを作っていると、さっきの灰色うさぎがやって来た。仲間は居ない。
彼はしばらく私達の作業を眺めていたけど。やがて一緒にだんごを作り始めた。連中と居る時より生き生きした表情で。
「あんま汚くすると飼い主が嫌がるから。こーゆーのやったコトないんス自分」
「けちょ言わないの?」
「アレは作ってるんスよウサさん。協会ではキャラ立ちペットのキャンペーン中でして」
ウサくんの目がガラス玉みたく輝く。キャラとかキャンペーンがヒットした模様。
「支部長もキャラなんス。本当は気の弱いオジウサ」
「僕もキャラ作りキャンペーンやりたい!」
「え? じゃ入会」
ドッギャァァァァァァン…………
時速四十キロで公園から居なくなった白い稲妻。
「あああ」
思わず溜め息が出ちゃうけちょくん。小動物の肩にのしかかる重圧が見え隠れする。
「大丈夫かい? 上からお叱り受けたりとか」
「……そんなの」
声ちっさ。
「そんなのどーでもいいんじゃボケェェェェェッ!」
「お、おぅふ?」
「組織のメンツかけてウサ公泣かすからなバァァァァーッカ!」
キャラ迷走うさぎがアカンベーしながら走って帰ってった。
ギャーン、キキッ!
再び時速四十キロで戻って来たウサくん。
「バトル編、スタートだねロッキー!」
イヤしないと思う。メンタル的にアレだから。
それではまた…




