責任者が不在時の対応について
土曜日の20時更新です…
夕暮れ時の公園ベンチで黄昏れるゴールデンブラウンの獣。
それがワシ。キツネの三助や。
全身の力抜いてリラックスタイム。さっきまでウサの相手しとったからな。
あの白うさぎ、今日はいつにも増してオモロいコトないかギラついてて。あーゆー時のウサはホンマ飢えたホッキョクグマやで! ホッキョクグマ知らんけど。
「はぁ~疲れた」
義手のビブラスラップをバィィィンて鳴らしてみる。今の気持ちにピッタシやんコレ。
「?」
いきなし目の前に。
黒T着たバァさんがブツブツ言いながら立っとった……一瞬バィィィンで召喚したんかと思って焦ったわ。
「初めまして……ハイ、ハイ初めまして。初めまして」
うつ向いたままずっと挨拶してはる。
七色ヘアーの角刈り小太りバァさん。アライグマが間借りしてる家の主で、ボケとるからウサがよう突っ掛かってく相手やけど。
「初め初め初め初め初め初め初め初め初め初め……」
今日はド派手にボケとる。関わりたぁないから祠に退散しよかとした矢先、バァさんが話し掛けてきた。
「この星の真の支配者を教えてくれないか」
「は?」
「とりあえずこの肉体に暮らしている39種のウイルスに挨拶しているんだが。380兆も居るんでね。埒が明かない」
「はああ?」
「君はキツネだね。人間の上位種なのかな?」
角刈りバァさんがやたら気取ったコト言うてくる。
「わたしはンバ。今はサチコの身体を乗っ取って活動している。ちょっと腰が痛い」
「……………………ひょっとして宇宙人?」
「イエス」
ヤバ。
ワシは咄嗟に、世界征服を目論んでたビスケットの会コアラ田中(秘書)が言ってた理論を思い出す。
『ある日、宇宙人が地球に来たとして。言葉わかんないからテレパシー使うでしょ。その時ペットが人間を〝召し使い〟って思ってたら地球の支配者はペットだってコトになる』
宇宙人が来た時用! て。ウサが納得してたっけ。
バァさんに『キツネが支配者やで〜』の念を送ってみる。
「で? この星の支配者は誰か教えて欲しい」
「キ、キツネやで!」
顔真っ赤っ赤で答えるワシ。テレパシー無いんかい。
「そうか。初めまして地球の支配者キツネ。ンバはこの星を調査しにやって来た」
「ドモ、三助や。はるばるお疲れさん!」
「キツネの三助。君がキツネの代表と考えてもいいのかな?」
「うん。ワシが一番エラい」
「そうか。では三助、この後地球は我々の手によって侵略されるからヨロシク頼む」
「はああああああああああああああ?」
めんどいコトに巻き込まれてしもた。
とりあえずここはボケ老人の独り言聞いただけ、みたいなノリで逃げるか?
そんな算段しとったら。
後ろから異様な圧感じて振り返るワシ。
夕陽を背に受けた耳長のシルエット。どーやら野性のレーダーでオモロ案件を感知したらしい。
「ウ、ウサ? 何や戻って来たんかお前……」
「サチコが宇宙人で地球は侵略されるの三助?」
地獄耳め。
地球存亡の危機に、事態を完全に把握した白うさぎがちょっかい出す気マンマンでおるがなコレ。
「君はうさぎだね。キツネと対等な関係のようだが」
「そいつ僕の家来だよ。三助は地球の支配者じゃなくてカルト集団の教祖です!」
「それじゃあキツネは嘘をついたと?」
「公園を不法占拠したり電気泥棒したりしてる!」
「犯罪者なのか……」
宇宙人に何言うとんじゃコイツ。ババァもテンション下がっとる場合か。侵略しに来たクセに。
「それでは改めて初めましてうさぎ。君が地球の支配者でいいのかな?」
「地球の支配者はリンだから。僕はペットなんで代理でお話は出来ます」
「そうか。ではうさぎ、地球を侵略するのでヨロシク」
「リンに伝えとく。折り返し返事するから」
「わかった。それではわたしは一旦星に戻る事にする。次に来るのはちょうど百ヶ月後になるだろう」
「オケ。じゃバイバイ」
バァさんがヨタヨタ歩いて帰ってく。小太りの影は夕方の街に溶け込んで消えた。
「ふうう。ヤバかったな〜ウサ」
「三助。百ヶ月って何年?」
「えとォ。ひぃ、ふぅ、みぃの……」
ふとウサの手元を見たワシ。
バクチク、握っとった。
それではまた…




