日和る男
土曜日の20時更新です…
「いらっしゃいませ。ご主人様」
トイプードルのロッキーが筋肉ムキッてしながらテーブルに着いてくれました。普段ウサと遊んでる時とは全ッ然違う雰囲気で。
さすがナンバーワンて感じです。
「おだんごで毎週会えるのに何故わざわざお店まで来てくれたのかな? 里見さん」
「あ、うん。ちょっとウサに邪魔されたくない案件があって」
ここはロッキーの働いてる高級感漂う犬カフェ。ボクは元漫画家の里見洋介って言います。
今はグループホーム〝おだんご〟の職員やってます。ロッキーは週末だけ施設に来てくれているアニマルセラピスト。
「イヤ、実はその……頼み事があるんだけど」
「いいとも。相談に乗ろう!」
何この頼れる感じ泣きそう。ボサボサ頭で白T半パン姿のボク。三十分二千円だから急がないとです。
「ボク、漫画の方でカンバックしたくてサ。ここんとこ企画練ってたんだけど」
「グルホのお仕事。こなしてる感アリアリだった!」
「あ……スンマセン。でね、君達の事描いてみようと思って。色々試して四コマ漫画にしてみた」
「ありがちだね!」
「そ、そか。えと何だっけ? それで作品は上がってんだけど前の出版社の編集には持ってけなくて……」
「売れなくってケツまくって辞めたから!」
脳筋犬の返しが思いの外キツい。軽くダメージ食らってます。
「その、とりあえずSNSで発表してみようかと思ってるんだけど」
ウーロン茶に手をつけるボク。
「よかったら拡散してくんないかなぁ〜エヘヘ」
思わずヘラヘラしてしまいました。このトイプーは呟くヤツで七十万人のフォロワーがいるんです。
「喜んでやらせてもらうよ里見さん!」
ロッキーが右の前足を出してキタ。握手かと思って手を出そうとすると
「原稿見せて」
「へ?」
「友人だからと言って何でもかんでも紹介するワケにはいかない。原稿見せて」
打ち合わせの時のクセで。持ってますけどね原稿。
さすがフォロワー七十万のインフルエンサー様だわ。こっちもあわよくば、てのが無くはない手前。
「ヨロシクお願いシャス!」
こー見えてコンテストで受賞して連載して単行本まで出してますからボク。素人のチェックなんぞ屁でもないです。
✳✳✳
……………………長い。
四コマ十本のネタ。もう、かれこれ三十分位読んでらっしゃるんですが……
ひょっとしてアレか? 字、読めないとか?
イヤ、でもロッキーはSNSで呟いてるし。アニマルセラピーの勉強してんのもボクは知ってます。
全く反応がないっての怖い。
「ふぅううう~……」
溜め息つきながらスマホで原稿カシャカシャ撮り始めるムキムキ。集中力切れたんかワン公?
テッテッテーレッテー♪ テッテッテレッテレッテレー♫
情熱大陸? ロッキーが落ち着いた様子で通話をスピーカーホンに切り替えてます。
「生まれて初めて漫画読んでみたんだが里見さん。私にはいまいちアレなんで。スペシャリストに画像送って判断を仰ぐコトにしました」
『あースペシャリストです』
ウサだ。
白うさぎですこれ。
『えーと、ご依頼の件ですけど。君はエッセイ漫画とか描きたい人なのかな?』
「は?」
『SNSによくある日常の出来事を綴った素人でもやれる漫画、描きたいってコト?』
「…………」
『プロだったらキャラとストーリー作り込んで全身全霊でぶちカマしに来てくんないと。どこにも刺さんないよ君ィ』
返す言葉が……ない。
見透かされてしまいました小動物に。
元ネタがいいから素材を活かす方向性で、みたいな。その程度でいいと思ってしまった。
賞味期限ニ〜三秒の消耗作品でいいと。
『ストーリー漫画で勝負すれば? て言ってました』
だな。言ってたのか…………
誰が?
『こらウサ……ダメでしょ。バレちゃう』
『だってリンが言えってぇぇ』
え?
リンさんが。
ひょっとして今のって……女神の御託宣だったの?
「リ、リンさんがボクの為にッ?」
『違う違うリンなんて居ない。あと気軽に名前呼ぶな』
アツぅ、この展開激アツぅ!
ユルユルだったボクの漫画魂に火が灯りました。
「ボク、強い企画作り直して……編集に持ち込みします。もうSNSに逃げたりしない!」
燃え上がる〝ずるむけ赤ティンコ〟こと里見洋介三十歳独身。
「うん、いい目になった! ご主人様」
脳筋に延長料金取られました。
それではまた…




