ぶきっちょ
土曜日の20時更新です…
「ダメじゃん師匠! それ食べちゃダメ!」
私のカワイイ友人。白うさぎのウサくんが何やら公園で騒いでいる。
テディベアカットの下に隆起する筋肉を意識しながらその光景を眺める茶色のマッスルロック。それが私、トイプーのロッキーさ。
実は私がナンバーワンを張らせてもらってる犬カフェにね。新しいキャストが入ってきたんだ。
ヨークシャーテリア女子のシェリー、だったかな。
イギリス育ちらしいんだが住むトコも無くて店に寝泊まりしてる。それはいいんだ。ウチのキャストはナンバーワンの私を含めて皆保護犬なんだし。
問題が一つある。
彼女変なクセみたいなのがあって。今、この公園でやってるねウサくん相手に。
「鳩に投げるんだから食べちゃダメでしょ師匠」
ウサくんから鳩用にもらったポップコーン、シェリーが食べちゃったみたいだ。つか、知り合いなんだウサくんとシェリー。師匠って何?
「ごめんウサ。無くなったからちょーだイ」
「しょーがないなぁ。はい……あ、コラ食べちゃダメだって! この縮れ毛ワン公め」
アレね。
彼女やっちゃダメなコトやっちゃう系なんだ。
店でもお客様とトラブルが絶えなくって……オーナーがブチ切れてる。
「アタシがコレやっちゃダメだって認識しなきゃ大丈夫だかラ。食べちゃダメって言わないでよウサ」
「オケ、師匠」
ウサくん爆竹一本渡してるね。食べちゃダメって言ってるけど。あ、食べた。
「爆竹食べちゃダメでしょ師匠」
「ペッ、まずゥゥゥ。お前わざとやってんナ!」
追っかけっこしてる。彼女の祖先、猟犬。
「キャッキャッ。そんじゃ師匠、お手したら負けね」
ウサくんがターンして前足ぴって出した。お、何か自分と闘ってるのかシェリー。スゴい顔で震えながら……ハイ、あっさりお手ー。
「お手、お手、お手、お手、ちんちん」
尻尾ブン回しながら右、左、右、左、ちんちんはやらない。制約をクリアしてないと発動しないらしい。
すっかり遊び方をマスターしたウサくん。
シェリーのコト「ロボ」とか呼んでる。師弟関係は解消したのかな。
「あまり彼女をイジらないでくれ給えウサくん。ウチの店の大事な仲間なんだ」
「あ、ロッキーだぁぁ!」
「カフェのナンバーワン……脳筋パイセン!」
今、脳筋て聞こえた気がする。ハハまさかね。
睨んで来るんだよいつも。
上を目指す、つまりナンバーワンを目指す子は多い。私は全てのキャストから的にされているワケなんだが。シェリーもその例外ではない。
「だってこのロボ……えと師匠。ポンコツなんだもんロッキー!」
ムッチャ笑顔で訴えてくるウサくん。いいオモチャ見つけた時のヤツ。爆竹でブッ飛ばすトカゲ捕まえた、みたいな。
「チィス、パイセン……何か用すカ?」
いいねシェリー、挑戦的な新人は嫌いじゃない。さっきまでお手してたけれど。
「イヤ今日は友人と遊ぼうと思ってね」
「あ、ウサ? アタシの弟子っすヨ」
ロボ扱いされてたのに。ちょっと涙出る。
ガラス玉みたいな目で私達の関係性を観察してたウサくん。多分この場にいる三匹をどうイジったら面白くなるのか、そろばん弾いてたんだと思う。
「今からしりとりしよ! んって言ったら死刑ね」
ペナルティに死刑持ってキタァァァァァァーッ!
さすがウサくんだ。ご褒美がデカければデカい程、彼女はやっちゃイケないジレンマと向き合わなければならない。
究極のペナルティに立ち向かう犬の顔を横目で見た。
何か、すん……てしてるゥゥゥ?
「僕、ロッキー、師匠の順番でいくよ。じゃキンタマのマ!」
「マ…………マスク」
「栗きんとん」
え? てなる我々。
相変わらず、すん……て感じのシェリー。
「えとォ、金蹴りのり!」
「り? ……リス」
「すっぽん」
これにはウサくんがキレた。うん、珍しくね。
「師匠ダメだろー! んって言ったら死刑なのにィ。はァァ何かつまんね。とりま二回死刑です」
思わずシェリーを見る私。
オシッコちびっていた……
あぁ、やっぱり効いてたんじゃないか死刑。
その後、刑は執行されました。壁に磔になったトコにスポンジボールぶつけられるヤツ(顔面アリ)二回。
これで少しはクセが治ればいいんだが。
「次はペナルティ無しで勝負っス、パイセン!」
また挑んで来るお漏らし女子。
「オケ師匠。バクチクのク!」
「くぎ」
「銀杏」
フフ負けず嫌いなヤツって。
悪くないかな。
それではまた…




