ウサのお友達、ロクデナシ樽本再び
土曜日の20時更新です……
元気良く、街中を時速四十キロで突っ走る僕。
樽本から電話来たんだ。こないだ救急車で運ばれたっきり、どーなったのかスッカリ忘れてたけど。
生きてた。
待ち合わせの喫茶店が見えてくる。アイツお金無いから、いつも公園とかで会ってたのに。「奢る」だって。何か警戒してたみたいだったけど……何だろ?
カラン、カラン、カラ。
ジャンプしてお店のドアを開ける。キョロキョロ。
いた!
金髪髭もじゃ。髪を後ろで束ねてる黒T男が一番奥のテーブルで椅子にもたれ掛かって……。
失神? してるーッ!
「樽本~ッ」
僕はヤツの席まですっ飛んでくと、短パンの膝にしがみついて声かけしてやる。いつものルーティンだ!
「んぐぅ……はッ、ウサか!」
「樽本ォ。また失神してんのかコイツめ~」
「おぉ、油断してた。危ね。コーヒー飲んでてリラックスしたんかな……」
ハッとして周りを見回すと安心したみたいに「ここやったら大丈夫」「店員いてるし」とか言ってる。
「頭パーンていったのか、樽本ォ」
「え? あ、イヤ寝てただけやでウサ。ちゃんと座っとるやろ? な!」
何だか今日の樽本ワールドは控えめだ。調子悪いのかコイツ? 僕は樽本が面白くなるのを待つコトにした。
「あ。せや、昨日Dのアニメ映画。地上波初放送でやっとったなー。見たんかウサ?」
違う違う樽本。そんな世間話欲しくない。
僕が待ってんのはアレだよ、ホラ。頭パーンてなるヤツ。見せておくれよ樽本ワールド。全開でサ、来いよ来いよカマーン!
「とにかくな、落ち着けウサ」
樽本がスパゲッティのナポリタンを注文してくれた。今日は雨、確定だね。とりあえず一口、パク。
ウソだろ……コレ、めっちゃウマイ!
僕は夢中になってちゅるちゅる食べた。
リンの作ってくれるナポリタンと全ッ然違う。ベッタベタのコッテコテだ! 樽本のコトもスッカリ気にならなくなる程ンマイ。
「ふううう。ゴチ、樽本。僕が今まで食ってたナポはナポじゃなかったよ……」
タバコ咥えたまんま失神? してる樽本。
「………………」
そう言えばさっき「天井の線、曲がってるやん」「遠近法おかしいやん」とかやんやん騒いでたっけ。ナポに夢中になってシカトしたけど。
耳ヒコヒコさせながら、僕はしばらく黙って見てた。
かふっ、て自力で息を吹き返す樽本。
「はぁぷ? あ、また寝てたな……。ウサ、大丈夫やから来んでええぞ。な!」
タバコに火つけてまた白目むく樽本。ぷっ、勝手に寝んなよ。頭パーンなんかコレ?
かふって。またまた自力で帰還。
今度は動きが超スローになってた。タバコを灰皿に置くまでに一本灰になる位のスピード。
僕はそ~っと席を立って樽本に近づこうとする。
ゆ~っくりと。ヤツの右手が上がってきて。僕の顔の前で止まった。
「だ~い~じょ~うぶうううう……」
このやり取りが五~六回続いて。
三十分程でヤツのゆっくりが元に戻った。スローは少し面白かったけど。僕が追い求めてるのとは違う。
僕は頭パーンがやりたいんだ樽本。
守りに入んなよ! 大丈夫とか言うな!
ギリギリの、ヤバいトコで持ちこたえたりこたえなかったり。そんなお前が好きなんだ。
マイヒーローT・A・R・U・M・O・T・O……
✳✳✳
結局、最後まで樽本は頭パーンてならなかった。
家に帰ってリンに一生懸命グチる僕。リンはテレビ見ながら何度も頷いてた。
「ったく! 樽本ひよってんじゃねーよ。ヒーローじゃないし。もう、会いたくない」
一回だけ足ダン出た。リンにしがみついて甘える。
「頭パーン、頭パーンて!」
そしたらリン、僕の方に向き直って抱きしめてくれたんだ。
「私がもし頭パーンてなったら。ウサはどうする?」
「泣いちゃうと思う!」
「そか。優しい子」
頭ナデナデしてもらった。
僕、優しい子だから許してやる樽本。
それではまた……




