許されざるもの〜カワウソの川田
土曜日の20時更新です……
「百円貸してウサくん」
「えッ? あ、いいけど……」
コンビニのレジ前。いきなりカワウソの川田さんが振り向いて言ったんだ。
僕は、この秋から仕事してる。ペットの福祉サービスやってる就労なんとかで、平日の午前中にパン屋さんで働いてます。
一日十分クッキーを作る。
小動物だから、これが限界。これ以上やると皆飽きてクッキー食い出しちゃう。
川田さんは店の先輩なんだけどね。今日初めての給料日なんで「コロッケでも食おーよ」って誘われて。僕は給料貰ったから(千円)早く帰ってリンに褒めてもらいたかったけど。
「ウサくんはご主人にベッタリなんだ」
とか言われて。
「イヤ、僕もともと野生だし! コロッケ食うし!」
意地悪なコト言うなぁ、て思いながらコンビニ。別々でコロッケ注文したのに……先に支払い中の川田さんから「百円貸して」って言われた。
ま、ついつい貸しちゃったんだけど。
これって何かおかしくね? だって川田さんも給料日でお金あるハズだし。
コンビニ出てから「何か変な感じ」と思いながらコロッケ食べた。ウマイ! 仕事の後、自分の金で食うコロッケウマ!
川田さんもガリガリコロッケ食ってる。
……借りたお金で食ってウマいのかなぁ?
何かモヤモヤする。いつ返してくれんの百円。結構言い出しにくいよねコレ。
「それじゃまた明日。ウサくん」
川田さんはスルスル帰ってった。
僕も家帰ってリンに給料の報告。「二百円足りないな」て聞かれて「コロッケ二個食べた」ってウソつく。リンは何も言わなかったけど。
次の日。川田さん、百円返してくれる気配なし。
……何か催促すんのヤだなぁ。貸した僕がこんなに気になってんのに、あっちはどーなの。まさか忘れてないよね? あり得ないんですけど!
二日経つと僕の方が忘れてた。
三日目、パン屋の主任メガネの後藤から「川田さん、辞めちゃった」ってみんなに報告アリ。
僕は川田さんとは大して仲良くなかったから特に何の感情もなく。あのスリムでぬるっとした感じとか思い出してたのね。
「カワウソって手が器用だったな。縦長の肉球のついた手で何でもうまく握れ……アレ? 手?」
手で何か握ってる。何を? 何か丸い……銀色の。お金? コレって…………。
鼻ヒクヒクさせながらフリーズする僕。
いつの間にか故郷の伊吹山にいた。
この広い野原、よく知ってる。ふと足元見ると丸い百円玉が一枚。
あ、百円だ。……ん、百円?
………………ひゃ、百円ッ!
僕のちっちゃな脳みそに。
コンビニのレジ前で渡した百円玉が鮮やかに蘇る……。これは、アレだ。計画犯ってヤツだ。最初から踏み倒してバックレるつもりだったんだ!
怒りが。
お腹の底からわき上がってきて僕はえらいコトになった。
ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダン……
足ダンする僕を見て、プレーリードッグのポンちゃんがひこひこ寄ってきた。
「百円返せ百円返せ百円返せ百円返せ」
「え、百円? 声ちっちゃくて聞こえない」
「……地獄の果てまで追っかける。地獄の果てまで」
「え? 何て? 地獄?」
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!
足ダンしながら呟く。ポンちゃんが思わず立ち上がって叫ぶ。
「主任さーん、ウサちゃん多分ウンコでーす!」
次の日には、もう忘れてた。
それではまた……




