わるものさんと子猫
土曜日の20時更新です…
多くの罪を犯して来た。
数え切れない程な。
イヤ、数える気など端からない。それが仕事だから。オレは黒のコートからシガレットケースを取り出して一服つけた。
黄昏時はいい。夜の闇を想うと心が躍る。
この公園は前にも一度訪れていた。あの時も今日と同じく翼を休めていただけだが。
……見た顔がいるな。
ベンチに座る白うさぎとエキショーの子猫、その手前に男が一人。金髪を束ねた髭の男は正座をさせられていて。地面にその長い影を落としている。
「樽本ォ〜。メタからお金取っちゃダメじゃん。返せ」
白うさぎが言う。すると金髪の男。
「あの五十円な。もう使てしもたんやウサ。だからないわ」
「ボクの棒きなこ代!」
子猫が叫ぶ。
この男は子猫から五十円を巻き上げてうさぎに締め上げられてるらしい。
「何に使ったのサ、樽本ォ」
「自販機。温かい紅茶五十円」
悪くない答えだ。紅茶ってとこがそそるな。
「駄菓子屋さんで棒きなこ五本買えるのにィィィィ!」
コイツはさっきから棒きなこしか言ってない。
「そもそも何でお金渡したのメタ」
「コイツがね、マジック見せてやるって言って。そしたらボクの五十円玉、手でひょひょって消したの!」
うさぎが街灯の下に立つオレに気付いたようだ。
「……メタの間抜け」
いきなり悪口言われて泣き出す子猫。
男は立ち上がると「したら、これで!」と逃げて行った。いつの時代も悪党は逃げ足が早い。
「ウサ兄ちゃん、ボク……樽本をボコしたい。ケンカのやり方教えて!」
「お前じゃムリだチビ」
大泣きする子猫。幼子の泣き声は耳に心地いい。
機嫌良く煙草を吹かしているとうさぎがタタタと駆け寄って来た。
「久しぶり羊人間さん!」
「相変わらず失礼なヤツだなうさぎ。オレは山羊だ」
首から下は人間だから山羊人間なら合ってる。
「公園でタバコ吸ったらリンに怒られるよー」
オレは携帯灰皿を出して煙草を始末する。嬉しそうなうさぎ。リンて誰だ。
「ね、ね。僕、さっき悪い子だった?」
「子猫を泣かしてたな。お前はそこそこ悪い子だ」
悪い子アピか。確か前回もこんなだったな。うん? 子猫が顔クシャクシャにしながらやって来た。
「羊のおじさん強いですか? ボクにケンカ、教えて下さい!」
そんなに羊っぽいのかオレは。自慢の巻角を撫でてみる。まぁ、いいけど。
「メタ。黒山羊さんは悪いコトしないと望みを叶えてくんないよ」
「え……だったらボク、悪い子になるよウサ兄ちゃん!」
そんなサービス提供してないんだが。似たようなニュアンスのビジネスやってるから誤解したのか……だがケンカのやり方ぐらいなら教えてやってもいい。
「これを使うがいい」
ゴトッ。
銀色に輝く鉄の塊を子猫の足下に置いてやる。
「デザートイーグル50AE。世界最強の超大型自動拳銃だ」
目を真ん丸くしながら子猫。
「こーゆーんじゃない……」
「え、スゴ。カッケえええええええッ! 黒山羊さん、僕にちよーだいコレ」
骨しかないオレの脚にしがみついてくるうさぎ。ややこしいから拳銃は消した。
「こういうのじゃないとはどういうのなんだ子猫よ」
うつ向く子猫。隣でうさぎが「銃がアアア」とか言いながらゴロゴロ転がってる。
「棒きなこのコト……ボクは樽本を絶対許さない。けど武器とかじゃなくて、素足でやっつける方法を教えて欲しいの!」
ムリだな。
子猫の戦闘力はせいぜい10程度(蟻を1とした場合)勝ち目はない。
弊社のシステムではこの事案に対応不可だ。
「悪いコト何でもするボク! だから……グス、えふぅ。おね、おね、お願いぃぃ」
「ウグァ……」
没みゆく夕日に照らされキラキラと輝く宝石の瞳。
直視出来ない。苦手なんだこの光は。
オレは背中の黒い翼を広げて宙に舞う。
ぶぅわさささーッ。
小さく旋回を繰り返しながら。驚いてる子猫に余所の事業所のシステムを紹介してやる。
「汝の敵を愛せよー」
はァッ? てキレられた。
それではまた…




