アニマルウォーズ《前編》
土曜日の20時更新です……
「何やってんの? ウサ」
緑ジャージの私。そっと覗き込んだ。
ウサがちっちゃい子用のテーブルで楽しそうに作業してる。
ベランダからの冬の陽射しに照らされて。白うさぎの真綿みたいな毛のモフモフ度増し増し。
「図工だよリン」
図工だって。何だかカワイイ。
「へぇ~。先月分のカレンダー使って作ってんの」
テーブルの上にはハサミで切られたカレンダーの型紙みたいなのが並んでる。
ツノでも作んのかしら?
分度器位の大きさの扇形が数枚と釘が数本。え、釘? 何に使うんだろこれ。
ウサは鼻歌フンフンでセロテープをぴってやると。扇の中心部分に釘の先っちょが出る形で貼り付けて、クリクリ丸めた。やっぱツノか? 釘出てるけど。
もっかい外側をテープで止めてそれで完成みたい。四個同じヤツ作ってた。
「何これ? ツノの先っちょが釘になってるね」
「ジャジャーン、ビニールパイプの登場でーす!」
背丈位の細いパイプをくりくり振り回しながら踊るウサ。テンション高いな〜。
「さてと。この矢を片っぽに込めて」
パイプにジャストフィットするツノ。ん? 矢って言ったか今。
壁に向かって「ぷっ」て吹いた。
ピッシィ!
矢が突き刺さる。壁に。
私のマンションの壁に。
「……何やってるウサ」
「吹き矢だよリン!」
ムッチャいい笑顔で自慢してくんだけど。何してくれてんのこの子。
「これでカラス軍団と戦います!」
「は?」
ピンポォォン。
誰か来た。この状況、まだ未処理なんですけど。
「ロッキーだあああああ!」
玄関まですっ飛んでく白うさぎ。ドアが開くとフルフェイスのメット被ったマッチョトイプーが立っとった。
「戦闘準備は万全かな? ウサくん」
「吹き矢作った! ロッキーの得物は……パチンコ?」
世紀末フルフェイスマッチョが何か持ってる。
「これはスリングショットだよウサくん。鉄球を正確に撃ち込めるスグレモノさ」
「オケ。そんじゃ今から出陣じゃー」
「ちょっと待ちイイイイイイイイイイイイイッ!」
びく! て固まる武装小動物コンビ。私は息を整えると静かな口調で切り出す。
「そんな危ないモノ持ってケンカしに行く気? アンタ達」
「ケンカじゃないよリン。これは戦争です」
ガラス玉みたいな目をしてウサが言う。フルフェイスもコクコク頷く。
前々からカラスとは相性悪いと思ってたけど。
「戦争反対。ダメ、絶対」
「えー、だってもう公園で待ってるもん……」
駄々をこねるウサ。公園でやる気かコイツら。一般市民が巻き添え食らうわ。
「ロッキーもダメじゃん。ウサを止める立場でしょ?」
「だって……カラス…………敵!」
何か震えちゃってますけど。武者震いの方だこれ。この子達って普段可愛らしくやってんのにサ。みんな戦闘好きなんだよねー。
「とにかく。戦闘行為は認めません。やったらおウチ入れないよッ!」
あ……
泣き出しちゃった二匹とも。
お、おキャワ! ちょっとキツく言い過ぎたかなー。怖かったんかなー。ゴメンゴメン。
「わかってくれたんならいいよ……ホラ、寒いから入って入って。ココア入れたげる」
するとお手手で涙フキフキしながらウサが
「ヒック、えふッ。やん……やんなかったらァ…………ナメられるからァ」
「ぐす、死んだ……死んだ方がマシだぁリンさん」
悔しみの涙スか? サイヤ人かアンタら。
そしたら、どっぴゅーんて!
逃げてった二匹が。推定時速四十キロ。
「ま、待ちなさいよアンタ達ッ!」
慌てて追っ駆ける私。
戻って鍵かけて、また追っ駆ける。
それではまた……




