吸血鬼VSアニマルセラピスト
土曜日の20時更新です……
誤解されてるラー昔っから。
よく女子中学生に間違われる? それはそう。天音はジャージが似合ってておぼこい言われるからな。
じゃなくって。
吸血鬼についてラよ。
やたら血ィ吸うだとか死人だとかコウモリの化身だとかお日様苦手だとか。あと、ニンニク嫌いって。アレ全部フィクションだかんな。リアルは全っ然違う。
ちょっと血ィ吸う寿命の長い人、て感じラ。
まぁ血ィなんて人間で言う酒みてぇなもんラから。別に無くたって生きてけるし、寿命だって人の十倍位のもんラよ。
あとサ、血ィ吸われたら吸血鬼になるってヤツ。んなのあるワケねーラ。
遺伝なんで。人と同じラ。
天音は吸血鬼なんよ。
「吸血鬼とか、もうオワコンだから天音」
一階ロビー。テーブルの上でタブレット観てる白うさぎが、こっち見もしないでね。言うんラよ。
「今の時代、異世界転生してきたエルフとかの設定じゃないと……弱いと思う!」
設定って言うな。アニマルセラピーやってるクセにお前。グループホームの入居者にもちっと丁寧に対応しろって話ラ。
「吸血鬼で長く生きてっと心病む人多いの。だから天音はグルホにいるのラ」
「リアルで語尾にラつけてる吸血鬼いたらマジで説教します僕」
アニメ観ながらのダメ出しキタアアアアア。
天音はショートストレートボブの前髪をクリクリいじり倒す。それでも頑張って吸血鬼のリアルってヤツを。この白いのに説明してみたんラ。
……何か溜め息ついとるー。
「ちょっと血ィ吸う寿命の長い人?」
「イ、イエス」
首振りながら「弱い」って今日二回目言ったそれ。次言ったら耳引きちぎるゾお前。
セラピーってヤツ受けるつもりがカミングアウトしちまったラ。小動物相手だから「ま、いっか」と思って。
天音がモジモジして立ってるとうさぎが
「……まだ何かあんの?」
「うん。夜寝れないラ」
「天音って歳いくつ?」
「江戸時代。寛永の生まれだから四百歳くらい」
「ババァだからしょうがないです」
新鮮!
こういうやり取り、むっちゃ新鮮ラ!
これがセラピーか…………
「たまに幻聴さんが聞こえる」
「天音歳いくつだっけ?」
「四百」
「ババァだからしょうがないです」
二回目ラ!
お笑いで言う天丼てヤツだけど。天音は素人だから二回目だって言うラ。そこはハッキリしとく。
「物忘れも激しい」
「ふーん」
流された!
寄せてったら距離取られた……野良ネコ手懐けようとして失敗した気分ラ。うさぎだけれども。
それにコイツ。さっきからずっとタブレット観ながら話し返してくんの。天音は数十年ぶりにハートに火がつくのを感じたラ。
この白うさぎを振り返らせたい!
天音の鉄板四百年ネタでなッ。
「宮本武蔵、見た事ある」
「ふーん」
「リアル新撰組見た事ある」
「ふーん」
「ペリー見た事ある」
「ペ? ……ふーん」
「二度の世界大戦経験してる」
「ふーん」
「…………戦後の闇市でピストル買った事ある」
「ふえっ、マジ?」
「旧軍が使ってた南武式って拳銃。護身用に持ってた」
「すげーッ!」
「今も持ってるラ。銃剣も持ってる」
「今も? 撃たせてッ、ねぇ撃たせて! お願いだから天音ぇぇぇ! お願いお願いお願いお願いお願い」
ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……………………
満足ラ!
タブレット放り出してすがり付いてきたもん小動物がァ~。フフン。
ん? 天音は何したかったんだっけ。
膝の上に乗っかって懇願するうさぎ。ピストル撃たせろーって、もう必死じゃん。不思議と可笑しくなって笑みが溢れるラ。
「あ」
久方ぶりに心、動いてるわー。
満足ラ。
まだイケるかもだ。
天音はその日の内に荷物をまとめると半年世話になったグルホを後にしたんラ。
上弦の月が夜空に輝く。
それではまた……




