拾ったお金を使っただけ(三百万円)
土曜日の20時更新です……
ちょっとした旅行に来ているよ。
先程ホテルの部屋で朝食をいただいたんだけどね。フフ、従業員達がこっそり何回も見に来てる。
だってパン田は本物のパンダだもの。
動物界の頂点に君臨する王がやって来たんだから。彼らもその幸運に身震いしているんだろう。パン田は十八番のでんぐり返しを披露しようとして壁にお尻をぶつけてしまった。
「あいたた。少し狭過ぎやしないかい、このホテル」
「何やってんのアンタ」
部屋には頼んでないのにカワウソのコンシェルジュが居るんだけれど。今アンタとか言ってなかったかな? 空耳?
「警察の留置場ってこんなモンだからパンダさん」
カワウソがヌルっとした感じで言ってくる。面白い顔して。
「ホテルの間違いじゃないのかな? コンシェルジュくん」
「ドアに鉄格子のあるホテルないから。あと、ぼくはコン何とかじゃなくて。川田です。前科七犯」
せっかくの旅行気分が台無しさ。
パン田は昨晩ついに捕まったんだ……ポリ公共にね。とりあえず旅行の設定で平静を装っている。
「ところでパンダさん。担当さんから聞いたんだけどアンタ指名手配されてたってホント?」
「何のコトかな? パンダに生まれたコトが罪と言うなら甘んじて受けるが。コンシェルジュくん」
「何言ってんのかわかんないけど。色々大変だったと思う。ガリガリだし。あんな美味しそーに官弁食べてたもん。川田です。前科七犯」
よく喋るカワウソだなー。
でも確かに食事が出るのは悪くない。昨日も冬眠前のザリガニ取るのに夢中になってて捕まってしまったワケだし。パン田の唯一の弱点かもね食事。
「……」
何か急に黙っちゃったカワウソ。
信じ難いコトだけど。パンダに背を向けて寝っ転がってる。
おーい、目の前にパンダがいますよー。
この奇跡の一時をムダに過ごしていいのかなー。パンダとお喋り出来るんなら人生棒に振っても構わないって人間、いっぱいいるけどー。
うーん。パンダ光線を振り撒いてもびくともしない。ひょっとして死んでるんじゃ……あ、生きてる。
「コンシェルジュくん。そろそろパン田はチェックアウトしたいんだが」
「へ? あ、寝てた。えーと、多分これから取り調べとかあります。パンダさんは指名手配犯だから検察行って起訴されると思う。だからチェックアウト無理」
川田ですって言わないんだ。前科七犯。
「そうか。了解したよ」
それからパン田は毎日取り調べを受けたんだ。カワウソのアドバイスで黙秘って権利を貫いて。
20日間くらいかなー。
勾留が続いてね。パン田はすっかり健康なパンダボディを取り戻したんだ。
だって毎日三度のご馳走が食べれるんだもの!
そしてクマさんパワー全開で留置場のドアをぶち破ってさ。
チェックアウトしました。
それではまた……




