ビューティフルワールド
土曜日の20時更新です……
距離を取られた。
マンションの部屋でウサと私。二メートル程離れて向き合ってる。
ウサに玄関サイドのポジションを取られた。いつでも外に逃げ出す構えね。私は説得を試みようと優しく話し掛けてみる。
「ウンチ。出てないよね? ウサ」
「出てるよリン。さっき出た」
ガラス玉みたいな目してる。嘘つき。
この子草食動物なのに野菜を食べないんだよ。繊維質が不足するからよく便秘になるんだけれど。
「前にお医者さんに出されたお薬、飲もっか」
「医者って、あの小動物虐待する悪魔のコト? アレ毒薬だから飲んだら死にます」
前に一度だけ動物病院連れてったの。点滴打たれてオシッコちびってたっけ。
「ウンチ出ないのよくないよウサ。便秘じゃなくて毛球症だったらどーすんの!」
「僕、毛食べないから平気」
自慢の黒耳がひこひこ。いつもグルーミングしてるクセによく言うわ。
とにかく。薬がムリなら病院行かないと、だ。
「……別の動物病院だったらサ、悪魔さん居ないから行ってみよっか?」
「悪魔は誰の心の中にでも棲んでるんだリン」
どこで覚えたそのセリフ。でもまだ余裕あんのね。会話が成り立ってる内に何とか説得しないと。
「絶対注射させないから。診てもらうだけ。ね?」
「……注射とか別に怖くない」
「じゃ何がイヤなの?」
「生殺与奪の権を他人に握らせるなって。富岡さんが言ってた」
要らん事言いやがる富岡さんて人。
「だから僕も自分の力で戦います」
「どーやって?」
「修業して強くなってウンチ、出す!」
ムリ。
説得は諦めた。とりあえずこの状況は想定済みだったからね。保険打っといたの。ゴメンね、ウサ。
私の雰囲気が変わったって気づいたみたい。毛の一本一本まで集中してんのが伝わってキタ。手榴弾のピンに指掛かってますけど? 的な。
ピンポォォォン。
突然の訪問者によって崩れる均衡。
話し合いは決裂、てな感じで矢の如く玄関までスッ跳んでくウサ。ドアを開け放って飛び出そうとした瞬間!その目に映るちっちゃな影ひとつ。
「こんにちはー、ウシャしぇんぱい!」
「と、とっとこ?」
覆面ハムスターのあゆちゃん。アホの樽本にお願いして来てもらったのだ。ウサ制圧用の戦力として。
「お邪魔しましゅ。リンしゃま」
「いらっしゃーい、あゆちゃん。ウサ捕まえちゃってホラ、上がって上がって!」
何だか照れながらウサの前足をロックしてトコトコやって来るあゆちゃん。フフ、かーわーいーいー。大蛇閉め落としちゃう位強いんだけどねー。
「今日はご主人しゃまが遊びに行って来いって」
「オッケーだよ~。ゆっくりしてってね」
私は二匹の前に小さなテーブルを置いてプロセスチーズ&カルピスをお出しする。
「うわぁーい! チーズでしゅよ、しぇんぱい」
「うん……だね」
「アタチ、チーズ大しゅきでしゅ~!」
「うん。じゃ食べるか」
右手を挙手しながら一歩前に出る私。
「ちょっと待ったァァァァァァァァァッ!」
ビク、てする小動物達。あゆちゃんがチーズを抱えたまんまフリーズしてる。我ながらテンション高い。
「あゆちゃん聞いて……ウサがね、今ウンチ出ないの!」
「え、便秘でしゅか。しぇんぱい」
「あ。うん、まぁ少し……」
「ダメでしゅよ。アタチら小動物は便秘になるとお腹破裂して死んじゃうんだから!」
「だよね、あゆちゃん。破裂? したらダメじゃん。だからホラ、お薬がここにありまーす」
テーブルの上に液剤入りのカップを置いてみせる。
「コレ毒だから……」
「飲んで下しゃい。しぇんぱい」
「イヤ、毒」
するとあゆちゃんは間髪入れず、カップの液剤を一気してみせた!
「毒じゃないでしゅよ」
「とっとこ……お前ッ大丈夫か?」
「へっちゃら。しぇんぱいもどーぞ」
「お、おぅ……上等じゃん」
ウサもカップに注いだお薬、飲んでくれた。
それから食事会がスタート。チーズはプロセスが一番とか言ってて楽しそうな雰囲気。
…………この世で最も尊い光景を見た。
いろんな感情が沸いて来て情緒ヤバかったけど。とりあえず土下座しました私。二匹は「?」てなってた。
食後に録画アニメセレクション(保存版)鑑賞を始めるウサとあゆちゃん。
途中、一緒にウンチしてた。
世界で一番綺麗なウンチ。
それではまた……




