異世界転生してもチワワはチワワだった件
土曜日の20時更新です……
「あああああああああああああッ!」
僕は思わず声を上げた。
仕事終わり。いつものコンビニでコロッケ買ってお店から出たらサ。居たんだ、茶色いチワワ。
コイツ知ってるー。
去年だっけ? ここの駐車場に置いてあった自転車のカゴに乗ってて、そのまま自転車泥棒に連れ去られちゃった自称〝殿様〟チワワ。
相変わらず小刻みに震えてるけど。
「久しぶり白うさぎ。オレやっと帰って来れたんだよ。異世界〝マゼゴハン〟からね!」
誘拐されて戻ってきたらキャラ変しとる殿様が。しかも異世界だって。余程辛い目に遭ったんじゃね?
「向こうじゃ勇者一行に混じって旅してた。女神ササミーのせいでオレのスキル〝部屋で飼える〟になっちゃったから。あんま活躍出来なかったけどね」
僕深夜アニメ大好きだけど異世界転生モノは見ない。だってつまんないもん。でも現実逃避中の小動物にはハマリやすい設定だと思う。
「飼い主が探してたよ殿様」
「飼い主? オレにそんなものないね。マゼゴハンじゃ魔王を倒した英雄なんですけど」
めんどくさ。よく見ると結構汚れてるコイツ。僕はコロッケを半分に割って放り投げてやる。
一瞬ビクッてなってからコロッケにかぶりつく殿様。
「ウマ! あっちの世界の食べ物は味薄いからなー」
まだ設定守ってんのか。僕はちょっと意地悪したくなった。
「あの後どうなったの? 誘拐されてからサ」
「誘拐? あー、転生のコトか。オレ山賊に育てられたんだけどね、ほらワケわかんないスキルのせいで」
〝部屋で飼える〟ね。
「でもある日旅に出た。ドア開いてたから」
逃げ出したってコトね。
「そっから冒険者になって、勇者の仲間になって、魔王倒した」
テンプレか。やっぱつまんね異世界転生モノ。
チワワにすっかり興味無くなった僕がお家帰ろうとした、その時。
目の前に凸凹の影が三つ現れたんだ。
ドデカいゴールデンレトリバーとお尻ふりふりのプードル、そして尾っぽ巻き巻き柴犬のトリオ……
「紹介するよ白うさぎ。戦士たもつ(ゴールデン)に魔法使いのペコ(プードル)それから勇者ポン太(柴犬)ね」
「ヨロシクうさぎくん! ポン太です!」
「え、え? 勇者パーティ?」
珍しくうろたえる僕。
「そだ。オラ達は異世界から戻って来たんだわー」
「ふふん。マゼゴハンを救った英雄の凱旋てトコかしらね」
スゴい…………
スゴい濃いぃメンツが揃ってるゥゥゥゥゥッ!
皆そこそこ小汚ないし。これで、よく保健所の連中に捕まんないな。何か……もう、リスペークツ!
「ペット三郎。これからどこへ行くんだっけか?」
「転生前に世話になってやった人間のトコ。とりあえずそこを拠点にしてみるってのはどうかなポン太」
飼い主のコトね。お前職業はペットなんだ三郎。
「ご飯たらふく食えるんかなー」
「アタイはベッドがあれば満足かしら」
「大丈夫。任せといて!」
プルプル震えてるけど楽しそーじゃん。良かったね殿様、イヤ三郎。仲間が出来て。
とっくにどっかへ売り飛ばされたと思って……あ、異世界転生か。つまんない設定だけどリアルにこのメンバー目の前にしたら何か、感動する!
圧が強いってか、狂犬の集まり? みたいな。
「皆さん、頑張って下さい。ファンです!」
「ありがとう、うさぎくん! ボク達の冒険はこれからも続くと思う!」
「またな、うさどん。腹減って死にそうだわー」
「アタイ達はこの世界も救っちゃうかもよ。グッバイ、うさちゃん」
「そんじゃな、白うさぎ」
僕は前足を目一杯振って。見えなくなるまで勇者一行を見送ったんだ。
「皆、捕まんなよ…………あと風呂入れ」
それではまた……




